研究課題/領域番号 |
26460373
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
西山 晃 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80589664)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 転写因子 / 細胞分化 / エピジェネティックス / ヒストンバリアント / ヒストン修飾 |
研究実績の概要 |
細胞分化は、未成熟な細胞が最終的に組織特異的な機能を獲得する過程であり、この過程では細胞系譜特異的な遺伝子発現が必須である。この遺伝子発現制御には、エピジエネティック制御も重要や役割を持ち、その中でもヒストンバリアントH3.3は「転写の記憶」を担う。H3.3は転写の亢進した領域に加え、分化特異的な遺伝子のエンハンサー領域にも予備的に取込まれる。一方エンハンサー領域におけるH3.3の取込み機能に加え、H3.3がどのようにして分化特異的な遺伝子発現に貢献するか、また分化特異的な遺伝子発現と「転写の記憶」との関連など、解明されるべき重要な点が多く残っている。本研究では、転写因子IRF8が誘導する単球分化でのH3.3の機能や取込み機構の解析を行い、細胞分化に必須な遺伝子発現を導く分子機構を理解することを目的とする。 これまでIRF8の標的遺伝子である転写因子Klf4の遺伝子発現をモデルとし、その発現機構の解析してきた。一般に遺伝子発現は、転写因子がエンハンサーを形成、活性化し、最終的に転写を誘導するとされている。一方我々は、Klf4遺伝子が、これとは異なる活性化機序を持つことを明らかにした。これまでの細胞株での解析に加え、マウス生体からの血球細胞、ヒトES細胞分化系などのChIP-seq解析を行い、この新規の転写活性化機構が、多様な遺伝子発現に関わる普遍的な機構であることが判明した。Klf4 遺伝子の発現誘導では、H3.3はエンハンサーと遺伝子の双方に蓄積する最初の転写制御因子であり、両領域を結びつける重要な役割を担うと考えられる。 今後、さらに分化特異的な遺伝子発現におけるH3.3の役割を解析していく。本研究の成果は、血球分化の分子機構の理解のみならず、遺伝子発現の制御破綻による発生異常や白血病、がんなどの病態理解や治療法開発に繋がると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の基盤となるデータの一つとして、IRF8により誘導した単球でのKlf4の遠位エンハンサーでのH3.3の著しい蓄積がある。このH3.3のChIP-seqデータは経時的解析を欠いており、エンハンサー形成・活性化の過程は不明であった。このため本研究申請時の研究計画調書では、エンハンサー形成・活性化の分子機構の解析を組み入れている。 これまでに、ドキシサイクリンによるIRF8発現誘導系を組み込んだ、Irf8欠損マウスから樹立したミエロイド前駆細胞株Tot2を樹立しており、経時的に高精細なChIP解析を可能とすることができた。この解析により、IRF8の標的遺伝子であるKlf4遺伝子が、これまでとは異なる新規の活性化機構を持つことが判明しており、エンハンサー形成・活性化の分子機構の解析は順調と言える。 さらに、複数の細胞分化系の経時的ChIP-seq解析を行っており、Klf4遺伝子の解析で見いだされた新規の活性化機構が、多様な遺伝子の発現誘導に関わる普遍的な機構であることが判明した。この新規の遺伝子発現機構の普遍性を示すことができたのは非常に大きな意義を持つと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度においては、H3.3のクロマチンへの取込み機構について、ゲノム上の転写調節領域と、タンパク質複合体との双方向から解析を行う。 まず、エンハンサーなどの転写調節に関わるゲノム領域がH3.3の取込みにどのような役割があるかを検証する。これまでに、Klf4遺伝子のプロモーター領域を欠失させた細胞株を樹立しており、この細胞株ではKlf4の転写活性化機序に不全が生じることが判明している。この細胞株を用いて、エンハンサー領域へのH3.3の取込みを経時的に解析する。また、エンハンサー領域の欠失細胞株も作製中であり、樹立後に同様の解析を行う。 また、Klf4遺伝子のプロモーター領域、エンハンサー領域を標的としたenChIP法によりゲノム上のタンパク質複合体の同定を行う。現在使用している細胞株では、レトロウイルスによる導入時にdCas9タンパク質の発現に問題があったが、力値の劇的な向上が可能になっており、問題の解決が見込まれる。また、enChIP法により精製したタンパク質複合体については、質量分析により構成タンパク質を同定する。同定されたタンパク質については、ノックダウンを行い、H3.3のクロマチンへの取込み、ならびに双方向性かつ多段階の遺伝子活性化機構への関与を評価する。これらの解析は、ドキシサイクリンによるIRF8発現誘導系を組み込んだミエロイド前駆細胞株を用いる予定であり、高精細な経時的変化を解析することが可能である。
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