研究課題/領域番号 |
26460378
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研究機関 | 熊本保健科学大学 |
研究代表者 |
矢野 正人 熊本保健科学大学, 保健科学部, 准教授 (60315299)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / ストレス応答 / 酸化ストレス / ABCB10 / TMEM65 / トランスポーター |
研究実績の概要 |
平成26年度の本研究において、ノックダウン法でABCB10の発現量を減少させた際には、各種ミトコンドリアストレス応答因子(ミトコンドリアのプロテアーゼや分子シャペロンなど)の発現量が低下することがわかった。このことから、哺乳類のABCB10は、そのオルソログであると推定されている線虫のHAF-1と同様に、ミトコンドリアストレス情報伝達経路上の因子であると推定した。また、TMEM65の発現量を減少させた際には、細胞質の脂質代謝関連因子の発現量が増加することがわかった。このことから、TMEM65は、β酸化などのミトコンドリアの機能に何らかの影響を与えていると推定された。 以上のこれまでの研究結果をふまえ、平成27年度の本研究では以下の解析を行った。①ABCB10やドミナント・ネガティブ型ABCB10(ATPaseドメインを除去したABCB10)の過剰発現した培養細胞、または、ABCB10をノックダウンした培養細胞から回収したミトコンドリアを用いて、ATP存在下におけるミトコンドリアからのペプチド放出量を測定した。しかし、コントロールに比べ、有意な差は認められなかった。②前年度に行ったGene Chip解析(ABCB10やTMEM65をノックダウンした際の各種mRNA発現量の変化)の結果を詳細に解析した。その結果、ABCB10やTMEM65をノックダウンした場合、酸化ストレス制御因子群のmRNA発現量が有意に増加することが新たにわかった。③ABCB10や、ドミナント・ネガティブ型ABCB10、あるいは、TMEM65を過剰発現させた培養細胞、または、ABCB10やTMEM65をノックダウンさせた培養細胞から回収したミトコンドリアを用いて、ミトコンドリア電子伝達系のシトクロムオキシダーゼ(COX)活性を測定した。その結果、いずれの場合にもCOX活性の有意な変化は観察されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の①の実験において、ABCB10がミトコンドリア内で分解されたペプチドを排出するペプチドトランスポーターとして働いている可能性を検討したが、ABCB10およびドミナント・ネガティブ型ABCB10の過剰発現やABCB10のノックダウンにより、ミトコンドリアから放出されるペプチド(分子量3kDa以下)の量に有意差はなかった。このことから、ABCB10がミトコンドリアストレス応答経路においてペプチドトランスポーターとして働いている可能性は低いと考えられた。一方で、上述の②のことから、ABCB10やTMEM65の発現量は、ある種の酸化ストレス制御因子の発現量と相関することが新たにわかった。また、上述の③の実験において、ミトコンドリア内膜タンパク質であるABCB10やTMEM65が、同じくミトコンドリア内膜にあるミトコンドリア電子伝達系のうち、シトクロムオキシダーゼ(COX)活性を持つ複合体Ⅳの機能に影響を及ぼしている可能性を調べた。しかし、ABCB10やTMEM65を過剰発現やノックダウンしても、COX 活性に大きな変化は見られなかったことから、ABCB10やTMEM65は、少なくとも、ミトコンドリア電子伝達系複合体Ⅳの機能には大きな影響を与えていないことが示された。 このように「ABCB10やTMEM65の機能解析を行う」という点については、ほとんどポジティブなデータが得られず、あまり研究を進展させることができなかったが、一方で、ABCB10やTMEM65の機能発現制御に関わると推定される酸化ストレス制御因子が新たに見出され、ABCB10やTMEM65が酸化ストレスに関与することがより強く示唆されたとともに、新たな研究の方向性が開けた。以上の自己評価を総合的に判断し、研究目的達成度の区分は「おおむね順調に進展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
線虫におけるミトコンドリアストレス伝達経路では、ミトコンドリアストレスにより増加したミトコンドリア内のタンパク質分解産物ペプチドをHAF-1(ミトコンドリア内膜のペプチドトランスポーター)がミトコンドリア外に放出し、放出されたペプチドのうちシグナル性を持つものが、細胞質を経て、ミトコンドリアストレスを核に伝える役割を持つと考えられている。本年度の研究では、哺乳類のABCB10がHAF-1と同様の機能を担っていると推定し、上述の①の実験を行ったが、それを示す証拠は得られなかった。一方で、平成26年度の本研究では、ABCB10をノックダウンした場合には、ミトコンドリアストレス応答因子の発現量が低下することがわかっている。これらのことから、ABCB10はHAF-1と同様の機能は持たないが、ミトコンドリアストレス伝達経路には関与していると推察される。恐らくは、ABCB10のノックダウンにより、ミトコンドリアストレス伝達が伝わらなくなり、酸化ストレスが増強されるのであろうと推察される(上述②の参照)。電子伝達系複合体そのものに影響を与える可能性もあるため、上述の③の実験では、ABCB10やTMEM65のノックダウンによるミトコンドリア電子伝達系複合体Ⅳの機能への影響を調べたが、有意な変化は観察されなかった。今後、ABCB10やTMEM65のノックダウンが他の電子伝達系複合体(複合体Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)に及ぼす影響についても調べてゆく予定である。また、TMEM65のノックダウンにより、なぜ脂質代謝関連因子の発現が増加するのか(平成26年度の結果)についても、平成27年度に明らかになった酸化ストレスとの関連性を手掛かりとして明らかにしてゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、平成27年度の予算範囲内で研究を進められる予定であったが、ミトコンドリアから放出されるペプチドを分離する実験系をHPLC法から限外濾過膜を使用する方法に変更せざるを得なくなった(ミトコンドリアから放出されるペプチド量が予想よりも少なかったため)。これに伴い、限外濾過膜、ペプチド・タンパク質の定量キットなどの追加購入が必要となり、平成28年度直接経費予算のうち400000円を前倒しで受け取り、その一部で上記の消耗品を購入した。このため、296441円の次年度使用額が生じた(結果的には、平成27年度当初予算を103559円超過して使用した)。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に平成28年度直接経費のうち103559円を前倒しで使用したが、全体額に占める割合は10%程度であり、研究の遂行にはほとんど影響を与えないと考えられる。よって、使用計画には大きな変更は生じない。平成28年度は、引き続き、下記の①~③について主に解析を進める。①ABCB10のミトコンドリアストレス伝達経路への関与についての解析。②ABCB10やTMEM65が電子伝達系の機能や酸化ストレス制御に与える影響についての解析。③TMEM65が脂質代謝に及ぼす影響に関する解析。
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