進化的に高度に保存されているSer/ThrキナーゼファミリーであるWNKは、偽性低アルドステロン症II型(PHAII)及び遺伝性感覚性自律神経性ニューロパチーのタイプ2A型(HSAN2A)の原因遺伝子であった。PHAIIの主な所見は、低レニン性高血圧であるが、精神発達遅延を伴うなど、両疾患共に神経系に病態が見られるが、その発症機構はいまだ解明されていない。私は、ショウジョウバエをモデル動物として用いた解析から、WNKが神経分化に重要な役割を果たしていることを明らかにした。そこで、本研究では、WNKの神経系での機能解析を行うことで、PHAII及びHSAN2Aの発症機構の解明につなげたいと考えている。前年度までに、WNKがNotchシグナル及びその制御因子であるNLKと相互作用するという結果を得た。ところが、NLKによるWNKの制御機構を解明しようとしたところ、NLKのWNKシグナルに対する作用機序が、神経細胞への分化前後で、変化していることが判明した。NLKは、Notchシグナルに対しては常に阻害するよう機能しているため、この結果は、NLKからWNKを介して、Notchへとシグナルが伝達しているとした仮定に反する結果となり、WNKとNLKは、共にNotchシグナルの制御に関わるものの、その関与は解明できないという結果に終わってしまった。 しかしながら、並行して行っていたWNK関連因子のスクリーニングから、新たにGSK3という因子が得られた。GSK3もNotchの制御因子として既に知られていたため、改めて、WNKとNotch、及びGSK3の相互作用を解析することにした。GSK3は、WNKの下流で正の制御因子として機能していた。今後、WNK、GSK3、Notchの相互作用の詳細を解明し、PHSIIやHSAN2Aの発症機構の解明につなげたい。
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