研究課題
昨年度はがんのモデル細胞として前立腺がん細胞株LNCaP細胞を用い、このがん細胞と間質細胞(前立腺ストローマ細胞)とが直接接触する状況、すなわち、がん細胞が原発巣を逸脱して周囲の間質細胞と異種細胞間相互作用を引き起こしている状況下で、がん細胞において有意に発現量が増加する遺伝子をDNAマイクロアレイを用いてゲノムワイドに解析した。そのような遺伝子の一つとして、細胞表面分子Mol-1(仮称)を同定し、その細胞内領域結合分子はMol-1-BP(仮称)であることを突き止めた。本年度は、Mol-1とMol-1-BPとの結合によりどのような細胞内シグナル伝達機構が活性化されるか検討を行った。まず、Mol-1がMol-1-BPのどの領域と結合しているかを、Mol-1-BP内の各領域を欠失させた変異Mol-1-BPを発現させ、免疫沈降法で明らかにした。次に、Mol-1を過剰に発現したLNCaP細胞では、親株のLNCaP細胞と比較して、チロシンリン酸化酵素c-Srcの活性化が上昇していることを見出した。さらに、低分子量Gタンパク質Rac1の活性も上昇しており、これらの細胞内シグナル分子の活性化が、Mol-1によるがん細胞の細胞運動活性化に寄与していると考えられた。マウスを用いたin vivo実験では、Mol-1を過剰に発現したLNCaP細胞をヌードマウスの尾静脈より注入したところ、2週間後に肺への転移巣が複数確認された。親株のLNCaP細胞を注入してもそのような転移巣は見られなかった。以上より、Mol-1はがん細胞の浸潤・転移能を促進する分子であり、その分子機構としてRac1の活性化が重要な因子であることを示した。
1: 当初の計画以上に進展している
昨年度同定したがん細胞内の新規分子Mol-1およびMol-1BPについて、1)これらが結合する部位を明らかにしたこと、2)Mol-1によって活性化される細胞内シグナル分子を突き止めたこと、3)マウスを用いた実験で実際にMol-1が浸潤・転移に関わっているのを証明したこと、によりがん細胞と間質細胞との相互作用が浸潤・転移を含むがん憎悪を促進するメカニズムに関して、計画時以上に重要な知見を示すことが出来たから。
ヌードマウスやがんモデルマウスを用いた実験をさらに継続し、Mol-1が個体レベルでがんの浸潤・転移に重要な役割を果たしていることの確証を得る。この過程で、Mol-1とMol-1-BPの結合が必須であることを明らかにする。分子レベルでは、Mol-1によるRac1の活性化機構において、どのようなRac1活性化因子が作用しているかを見出し、Mol-1を介した細胞内シグナル伝達の全容を明らかにする。
In vivo実験に関して、計画当初よりも効率的に行うことが出来た。また、細胞培養等にかかる費用についても当初見積りと比較して安価になった。
費用が多大となるマウスを用いた動物実験を中心に助成金を使用することを予定している。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Ophthalmic Genet.
巻: in press
10.3109/13816810.2015.1120319
Jpn J Ophthalmol.
10.​1007/​s10384-016-0424-6
J Biochem.
巻: 158 ページ: 197-204
10.1093/jb/mvv034
http://www.shiga-med.ac.jp/~hqbioch2/