研究課題/領域番号 |
26460392
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
吉澤 達也 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 准教授 (40313530)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 腸管 / インスリン受容体 |
研究実績の概要 |
平成26年度の実験計画に従い、以下の実験を行った。 1、腸管特異的インスリン受容体ノックアウト(IR gutKO)マウスを用い、糖・エネルギー代謝への影響を解析した。その結果、腹腔内耐糖能試験においては耐糖能異常が認められないが、経口耐糖能試験でのみ耐糖能異常が認められた。また、インスリン感受性試験では顕著な差は見られなかった。インスリン/インクレチン分泌能試験は現在匹数を増やして実験しているところである。 2、IR gutKOマウスを用い、免疫系への影響を検討した。 (1)マウスの糞を用いて腸内細菌の16S rRNA遺伝子を解析、さらに次世代シークエンサーによるメタゲノム解析で腸内フローラを網羅的に解析した結果、IR gutKOマウスとコントロールマウスでは、腸内フローラが明らかに異なっている事が判明した。さらに、4種混合抗生物質を飲料水に添加し、腸内細菌を無くした状態で経口耐糖能試験を行ったところ、IR gutKOマウスの耐糖能異常が認められなくなった。これは、インスリンシグナルが腸管で阻害されると、腸内フローラが変化し、耐糖能異常が引き起こされる事を示している。 (2)腸管に発現している遺伝子群の変化をリアルタイムPCR法にて検討したところ、IR gutKOマウスでは抗菌ペプチド群の遺伝子発現が低下していた。さらに、FACS解析により、IR gutKOマウスでは腸管パイエル板胚中心におけるBリンパ球の活性化が促進されている傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した実験はおおむね順調に遂行されている。特に、免疫系への影響については非常に重要な結果が得られており、本研究課題の重要性が再確認できた。 計画以上の進展が見られなかった理由は、マウスの繁殖が思うように進まなかった事が挙げられ、今後改善していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成26年度に得られた実験結果をさらに確実なデータにするため、解析数を重ねる。特に、腸内フローラの変化と腸管免疫系の変化は双方向性であるため、インスリンの直接効果を検討するためには、4種混合抗生物質により腸内細菌を無くした状態における各種免疫関連遺伝子発現の変化やリンパ球の変化を検討する必要がある。 さらに、平成27年度以降の計画では、腸管のインスリン抵抗性について解析を進める。一般に「インスリン抵抗性」は、血糖値を指標にした個体全体としてのインスリン感受性の低下について使われる。しかし、実際には各組織において異なった時期とメカニズムでインスリン抵抗性は引き起こされ、異なった機能異常を及ぼすので、生活習慣病の全体像を解明するためには、それぞれの末梢組織において特異的なインスリン作用と、組織ごとに引き起こされる特異的なインスリン抵抗性(選択的インスリン抵抗性)発症メカニズムの検討が必須である。そこで、腸管でインスリン抵抗性が引き起こされる仕組みを調べる為、高脂肪食負荷マウスを経時的に解析し、各臓器でのインスリン抵抗性がどのようなタイミングで引き起こされるのか、またそのメカニズムについて解析を進める。この時間・空間的解析の結果は、ある組織でのインスリン抵抗性が引き起こす、二次的インスリン抵抗性の理解に貢献すると思われる。
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