研究課題/領域番号 |
26460394
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
橋本 康弘 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (80164797)
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研究分担者 |
苅谷 慶喜 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (00458217)
伊藤 浩美 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (00450669)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳炎/脳症 / 熱性けいれん / 髄液 / α2マクログロブリン / 診断マーカー |
研究実績の概要 |
髄液は脳周囲を循環する体液であり、神経系マーカーの宝庫と考えられている。我々は、髄液中にユニークな糖鎖(脳型糖鎖)を持つ一群の糖タンパク質を見いだした。その一つにα2マクログロブリン(α2M)がある。α2Mは生理的なプロテアーゼ・インヒビターであり、けいれん性疾患での変化が予想された。 けいれんを示す者群を、重症疾患である急性脳炎および脳症(acute encephalitis/encephalopathy: AEE)群と、後遺症なく回復する軽症疾患である熱性けいれん(febrile seizure: Fs)群の2つに分別し、α2Mによる鑑別の可能性を検討した。 平成27年度には症例数を増やし、AEE・15例およびFs・24例の試料を収集した。髄液のウェスタンブロットにより、AEEでは、Fsに比べてα2Mが上昇していることが示された(p = 0.016)。従って、α2MはAEEのマーカーになることが示された。一方、同じ症例の血清中α2Mをウェスタンブロット法にて測定したところ、AEEとFsの間で、有意差は認められなかった(p = 0.152)。この事実は、髄液中α2Mの変化は血清α2Mとは独立した制御を受けることを示している。 ウェスタンブロットによる定量は、時間と手間がかかることから、サンドイッチELISA系の構築を行なった。作成されたELISA系では5~100 ng/mLの範囲で直線性を示す検量線が得られた。この実験系によりハイスループットのアッセイが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、重症疾患であるAEEと軽症疾患であるFsのマーカー探索である。平成27年度の結果は髄液中α2Mが両病態の鑑別疾患マーカーになることを示している。従来バイオマーカーがなかった脳症の早期診断により、患者の救命につながることが期待される。 AEEとFsではα2Mの濃度が髄液中では有意に異なるのに対し、血清濃度は両者で差が認められなかった。この事実は、髄液と血清のα2Mが独立した制御を受けていることを示唆している。また、診断には髄液採取が必須であることを示している。 従来、α2Mの測定はウェスタンブロット法で行なっていた。しかし、この方法は時間と手間がかかるため、臨床応用は難しかった。平成27年度に我々はサンドイッチELISA法によるα2Mの測定系を構築した。これは、臨床応用に結びつく成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、AEEとFsの間で髄液中α2Mの有意差を示した。しかし、診断の感度・特異度は十分とは言えない。この理由は、髄液中には血清由来のα2Mが混入しており、脳内で作られるα2M(真のマーカー)と区別されないためと考えている。両α2Mは、タンパク質部分は同一であるが、糖鎖修飾が異なっている(血清型α2Mおよび脳型α2M)。すなわち、糖鎖修飾の違いを検出すれば両アイソフォームを個別に定量することが可能となる。これによって、診断の感度・特異度の上昇が期待される。 糖鎖アイソフォームを区別する具体的な方法は、“レクチン/抗体サンドイッチELISA法”である。この方法では、糖鎖認識分子であるレクチンを使って、アイソフォームを区別する。脳型糖鎖を認識するレクチンをマイクロタイタープレート上にコートし、脳型α2Mを捕捉する。この時、血清型α2Mは捕捉されずに洗浄除去される。洗浄操作の後、捕捉された脳型α2Mを抗体にて検出する。 これによって脳型α2Mを特異的に測定することが可能である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究成果により、AEEで増加するα2Mは脳内で生合成されることが示唆された。これを実証するために、抗α2M抗体を使った免疫組織化学を予定していた。しかし、ヒト脳炎の組織の入手ができなかったため、組織学的研究は行なえなかった。このため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
脳炎組織の入手先として、福島県立医科大学の病理学講座を予定していた。平成28年度は他施設からの脳炎組織を入手を予定してあまおり、組織学的検討を行う予定である。
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