研究課題
血管新生は既存の血管から新たに血管が形成される生理現象である一方、病的な血管新生は多くの疾患に関与している。これまでに血管新生に関連するシグナル伝達系は精力的に解析されているものの、その複雑なメカニズムの全容は明らかにされていない。研究代表者らは、血管新生が出生直後から観察されるマウス網膜を用いたマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を通じて、これまで血管新生との関連性が報告されていない複数の候補遺伝子を抽出することに成功している。そこで本研究では、これらの遺伝子がコードする分子やその標的遺伝子について血管内皮細胞や組織における機能を解析し、生理的血管新生に関連する新たなシグナル伝達系を解明することを目的とする。本年度はまず、網羅的発現解析により取得した候補遺伝子の発現変動の再現性を検討するため、マウス網膜において標的遺伝子を高精度に定量するqPCR系を構築した。その過程で、発生段階のマウス網膜においては、遺伝子発現の補正に汎用されているβ-actinやGapdh遺伝子等のリファレンス遺伝子の発現が必ずしも一定でないことが示唆された。そこで、in silicoプログラムやSAGE法に基づくデータベースを活用しながら、本実験系に最適なリファレンス遺伝子の検索を試みた。その結果、1)発生段階ごとに最適なリファレンス遺伝子を厳選することが重要であること、および、2)本実験系においてはSdha遺伝子が最適であること、を明らかにした(Genes Cells, in press)。最終的に本qPCR系を用いて出生前後のマウス網膜における血管新生に関連し得る候補遺伝子の発現変動を定量したところ、網羅的発現解析の結果が再現されることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者らが申請時に取得していた血管新生との関連性が報告されていない複数の候補遺伝子について、マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析結果だけでなく、独自に構築した高精度なqPCR系でも出生前後における発現の変動が再現できたことは今後の機能解析に向けての基盤として意義深いと考える。
次年度以降は、マウス血管内皮細胞株(TKD2)において新規血管新生関連候補遺伝子の機能をsiRNAを用いてノックダウンする実験系を構築し、特定の遺伝子機能をノックダウンしたTKD2をコラーゲンゲル上で三次元培養することによって、管腔形成等の血管新生能に与える影響を検討していく予定である。同様に、これらの現象がHUVEC等のヒト細胞株においても再現されるかどうかを検討する。候補遺伝子の中には転写因子も含まれていることから、上記の結果次第では転写因子の標的遺伝子の探索にも着手する。
今年度にシークエンス解析を実施する実験補助に対する人件費を計上していたが、シークエンス解析を実施しなかったため。
siRNAを用いたノックダウン解析は本研究の機能解析における最重要事項であるため、その条件検討を緻密に行いたいと考えていることから、当初の計画より多数のsiRNAの合成費用に充当したいと考えている。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件)
Nat. Genet.
巻: 47 ページ: 387-392
10.1038/ng.3226
Sci. Rep.
巻: 4 ページ: 5340
10.1038/srep05340