研究実績の概要 |
昨年度までに研究代表者らは、血管新生が出生直後から観察されるマウス網膜を用いた網羅的発現解析によって出生前後で発現が変動した遺伝子群の中から複数の新規血管新生関連遺伝子の候補を取得すると共に、高感度な定量PCR法を独自に開発し(Adachi et al, Genes Cells, 2015)、これらの候補遺伝子の発現変動が再現されることを確認している。さらに、取得した候補遺伝子が血管新生に与える影響を評価する系として、マウス血管内皮細胞株(TKD2)をコラーゲンゲル上に播種することで血管新生を誘導し、その面積(増殖量)と長さ(伸長量)を定量する実験系を構築した。 そこで本年度は、研究代表者らが取得した候補遺伝子の一つ(細胞接着に関連する遺伝子)について血管新生に与える影響を評価した。まず、この候補遺伝子に対するsiRNA(Accell siRNA, GEヘルスケア)をTKD2に導入し、遺伝子発現のノックダウン効率を検討した。その結果、ネガティブコントロールのsiRNAを導入したTKD2と比較して候補遺伝子の発現量が約80%抑制された。次に、候補遺伝子の発現が抑制されたTKD2をコラーゲンゲル上で24時間培養することによって誘導された血管新生の増殖量と伸長量を定量した。その結果、ネガティブコントロールを導入したTKD2と比較して候補遺伝子の発現を抑制したTKD2では血管新生の増殖量及び伸長量が共に有意に(P<0.01)抑制されることが明らかになった。 本研究を実施したことによって、これまで血管新生との関連性が報告されていない細胞接着に関連する新規遺伝子を同定することに成功した。今後は、この遺伝子を起点とする遺伝子ネットワークが血管新生に与える影響を詳細に解析することによって、生理的な血管新生の分子メカニズムの全容を解明していきたいと考えている。
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