研究課題
前年度までの研究により、私達は妊娠期膵β細胞からの代償性インスリン分泌亢進にHtr3aセロトニン受容体シグナルが重要であることを明らかにしているが、今年度はこのシグナルに加えてATP受容体(P2受容体)シグナルが妊娠期膵β細胞からの代償性インスリン分泌亢進調節を行っていることを見出した。ATPは膵β細胞内のインスリン顆粒に貯蔵されており、グルコース刺激に応じてインスリンと共に開口分泌されることが知られている。膵β細胞膜にはATP受容体であるP2受容体が局在しており、分泌されたATPのautocrine-paracrineによるP2受容体活性化を介したインスリン分泌調節が示唆されているが、未だ不明な点が多い。本研究では妊娠期β細胞でのインスリン分泌亢進にP2受容体シグナルが関与しているかどうかを明らかにするため、非妊娠期と妊娠期(妊娠14日目)マウスから単離した膵島を用いて各種P2受容体の発現、及び阻害薬のグルコース応答性インスリン分泌への効果を調べた。その結果、P2X7受容体阻害薬存在下では妊娠期膵島からのインスリン分泌亢進が有意に低下した。また、P2X7受容体ノックアウトマウスから調製した膵島では妊娠期のインスリン分泌亢進が野生型マウス膵島に比べて有意に低下していたことから、妊娠期β細胞からのインスリン分泌亢進にP2X7受容体シグナルが重要な役割を果たしていることが示唆された。来年度には、妊娠P2X7受容体ノックアウトマウスを用いてこのP2X7受容体シグナルによるインスリン分泌亢進の分子機構の詳細を明らかにしたいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
各ノックアウトマウスの繁殖、また妊娠マウスの作成に苦労しているが、おおむね計画通りに研究が進展している。
今年度見出したP2X7受容体シグナルによる妊娠期インスリン分泌亢進の分子機構を明らかにする予定である。この結果と前年度までに明らかにしてきた結果と統合し、妊娠期インスリン分泌亢進の分子基盤を明らかにし、妊娠糖尿病の成因を考察する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 2件)
Diabetes
巻: 65 ページ: 1648-1659
10.2337/db15-1207
杏林医学会雑誌
巻: 46 ページ: 19-21