DNA複製開始初期に働くヒストンアセチル化酵素であるHbo1が、ユビキチン化を介してエストロゲン受容体(ER)のタンパク質分解を促進する機構を明らかにし、ER陽性乳がんがホルモン療法に抵抗性を獲得する機構を理解するのに役立てることが目的である。今回の研究で、以下のことが明らかとなった。
ERのカルボキシル末端に位置するリガンド結合ドメイン(LBD;アミノ酸:304-554)が、Hbo1によってユビキチン化の促進を受ける。Hbo1の組換えタンパク質それ自体が、ユビキチンE3結合酵素(リガーゼ)活性を持つ。試験管内で、Hbo1組換えタンパク質が、ERのLBD組換えタンパク質をユビキチン化する。ERのリガンドであるベーターエストラジオール存在下で、Hbo1によるユビキチン化反応は阻害される。[以下は最終年度の成果]転移性乳がん由来の転写活性化能が亢進したER変異体は、Hbo1によって野生型ERよりもユビキチン化を受けやすい。Hbo1の発現抑制によって、エストロゲンの有無にかかわらず、ERの発現が上昇する。以上の知見をまとめ、論文投稿中である。
このように、ヒストンアセチル化酵素Hbo1が直接にエストロゲン受容体(ER)をユビキチン化し、タンパク質分解を促進することを見出した。この新たなERタンパク質分解の機構は、ER陽性乳がんがホルモン療法抵抗性の理解を深める上で役立つ知見である。今後は、ヒストンアセチル化酵素Hbo1がアセチル化酵素活性とユビキチン化酵素活性をどのように使い分けて、細胞内での機能を発揮しているのか解明するのが次に必要な課題である。
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