研究課題/領域番号 |
26460402
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
呉 文文 聖マリアンナ医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10434408)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | BARD1 / BRCA1 / DNA repair / HP1 / CtIP / BACH1 / RAP80 |
研究実績の概要 |
家族性乳癌および卵巣癌の原因遺伝子産物であるBRCA1はDNA二本鎖切断(DSB)に対する相同組換え修復に必須な役割を果たしている。申請者らはBRCA1のDSB局所への集積にヘテロクロマチン蛋白質(HP1)が必須の役割を果たしていることを見出して、RAP80とユビキチン鎖の結合に加え、BRCA1-BARD1がDNA損傷後後期に集積するために必須なBARD1とHP1γを介した新規メカニズムを発見した。BRCA1のヘテロクロマチンDNA損傷部位への集積に重要な役割を果たしているBARD1を中心に、クロマチンの高次構造に特異的なBRCA1を介した相同組換え修復メカニズムを解析を行っている。平成26年度においては、shRNAにて内因性野生型BARD1の発現を抑制すると同時にHP1γと結合しないBARD1変異体を発現させたadd-back実験系を構築し、その安定発現HeLa及びU2OS細胞株を樹立した。樹立した細胞がdoxycyclin添加により野生型と変異体の発現が入れ替わることをウェスタンブロットにて確認した上、BARD1変異細胞を用いてIR照射ないしレーザーマイクロ照射を行い、DSB後早期にBACH1およびCtIPがDSB局所に集積することを蛍光免疫染色にて、BRCA1とBACH1 およびCtIPが結合していることを免疫沈降―ウェスタンブロットにて解析した。一方、DSB後期のBRCA1とBARD1が損傷局所に集積できないことを再確認するとともに、ABRA1-RAP80の集積が阻害されるか否かを確認した。以上にてHP1γとBARD1の結合がATM依存的、BRCA1-B, -C複合体の損傷局所へのリクルートには必須で、BRCA1-A複合体のDSB局所への集積に必要ないことが明確的に示した。BRCA1のDSB相同組換え修復機構に新しい知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は計画に沿って研究が実施され、必要なデータも得られて、研究はおおむね順調に進展している。 add-back実験系は本研究を展開していくには最も重要な解析ツールで、add-back実験系の確立に成功したことによって、多くのデータを得ることができ、今後研究する上で重要な土台が築かれたと考えられる。 BRCA1複合体およびDNA修復蛋白質の損傷局所への集積の解析はBARD1変異細胞を用いた実験から多くのデータが得られた。よりスムーズに研究を遂行し、より優れた成果を創出するため、本来来年度に予定していたBRCA1-A、BRCA1-B及び -C複合体の損傷局所へのリクルート解析も前倒して行うことができて、研究は順調に進展していると思う。 BRCA1-BARD1によるゲノム上制御領域の解析については、ChIPアッセイの条件検討を行い、今後の実験展開に条件が整えた。 in vitro 再構築系実験に関しては、ヌクレアソームの精製は完了し、バキュロウィルスによるBRCA1-BARD1複合体の精製を完成した。in vitro ユビキチン化反応のために条件検討も行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で、ATM依存的BARD1とHP1γの結合はDNA修復蛋白質の損傷局所へのリクルートに新たなメカニズムとして同定した。本来の予想と反して、BARD1とHP1γの結合がBRCA1-A複合体ではなく、BRCA1-B, -C複合体の損傷局所へのリクルートには必須である結果が得られている。最近の研究報告からはBRCA1-A複合体が主に相同組換修復ではなく、非相同末端再結合修復に段々明らかになってきたことから、本研究で得られた結果は合理性があって、非常に興味深いものと考えられる。今後、BARD1とHP1γの結合に依存するBRCA1-B, -C複合体の損傷局所への集積の意義解明に向けて研究を遂行する。BRCA1-B, -C複合体が主に機能すると考えられる細胞周期チェックポイント機構の解析やDNA end resection機構の解析で実験を実施する。 BRCA1-BARD1によるゲノム上制御領域の解析にはChIPアッセイが最も有効な手段で、ChIPアッセイを用いたBARD1とHP1γの結合に依存する相同組換え修復のヘテロクロマチン領域の特異性について解析する。 BARD1とHP1γの結合に依存する損傷局所にリクルートされる新たな相同組換修復因子の同定にタバコエッチウィルス(TEV)とStrepIIタグ配列を導入したBARD1発現プラスミドを用いることが有効で、質量分析解析の結果により、BARD1との結合タンパク質として新たにLSD1が同定されている。LSD1とBARD1の結合の機能解析に研究を実施し、DNA損傷修復やヘテロクロマチン形成に関連した機能解析を行う。
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