本研究では、BRCA1のDSB局所への集積にヘテロクロマチンタンパク質(HP1)が必須であることを明らかにした。BRCA1はヘテロクロマチンDNA損傷部位へ集積するのに、従来からよく知られているRNF8/RNF168ユビキチン化DNA損傷応答経路に介さず、BARD1がその中心的な役割を果たしている。ATM依存的にBARD1がHP1γと結合し、ヘテロクロマチンの領域に位置するK9メチル化修飾を受けたヒストンH3へローディングすることにより、BRCA1-B複合体とBRCA1-C複合体がヘテロクロマチン領域にリクルートされ、その領域における相同組換修復に担う。これらの知見は本研究によって解明され、論文を二本にまとめ、公表された。最終年度において、研究計画に沿って、新たなBARD1との相互作用結合タンパク質の同定について検討した。ブルーム症候群の原因遺伝子であるBLMがBRCA1/BARD1の新しい結合分子として候補に上がってきたため、この新しい複合体の分子機能解析を行った。BLMはDNAのヘリカーゼで、一本鎖DNAと高い結合能を有するRPA蛋白や、BLAP75/Top3aと複合体を形成し、Double Holliday Junction(DHJ)を効率よく解消する機能を持つとされている。本研究で得られた結果から、BLMは細胞周期の合成期に特異的BARD1/BRCA1と結合する。BLMとRPA蛋白の結合はBRCA1の結合蛋白質でもあるHERC2のアセンブリー機能によって調節され、DNA複製ストレス応答時DHJの解消に機能する。今まで、BRCA1機能不全時DNA複製ストレスへの応答機能も低下しており、その分子機構について不明な点が多く存在する。今までの理論でうまく説明できていなかったところもこの新しい発見によって解明される可能性もあるなど、多くな成果も今後に期待される。
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