研究課題
(背景)申請者は妊娠高血圧腎症の遺伝子改変モデル動物を初めて報告し、catechol-o-methyltransferase(COMT)不全を介したカテコール代謝異常がその原因であることを解明した (Nature 2008 Kanasaki et al)。妊娠高血圧腎症とメタボリックシンドロームは病態における類似点が多い。妊娠時インスリン抵抗性を有する症例は、血糖が正常でもその後妊娠高血圧腎症発症リスクが高い、また妊娠高血圧腎症症例においてはその後の人生における糖尿病発症リスクが2倍程度高い。低COMT酵素活性遺伝子多型と妊娠高血圧腎症、高血圧、糖代謝異常、急性冠症候群との関連も報告された。そこでCOMT不全がメタボリックシンドローム・妊娠高血圧腎症に共通の分子機構であると仮説し、COMT不全がメタボリックシンドロームの病態において演じる役割を網羅的に解析する事を試みた。現時点では、COMT不全は高脂肪食や様々なストレスで惹起されうること、COMT不全の結果としての健康被害は、妊娠高血圧腎症のみならず、耐糖能異常や高血圧の分子機構において重要な役割を演じること、そのCOMT不全による健康被害は、ほとんどがCOMT不全の結果としてのcatechol代謝不全に伴うメトキシ化合物の欠乏(その中でも特に2-methoxyestradiol)に起因する可能性が示唆されている。現在更に詳細な分子機構を検討中である。
2: おおむね順調に進展している
現時点では、COMTsiRNA投与実験も当初予想より効果的に実施できており、COMT阻害薬と同様の結果が得られている。雄マウスにおけるCOMT発現は肝臓に非常に高いことが明らかとなり、COMTsiRNA投与により肝臓COMT蛋白の有意な抑制が確認できた。しかしながら興味深いことに、肝臓ではCOMT蛋白が抑制されているにもかかわらず、他臓器ではむしろ増加している臓器もあり、1) 肝臓COMT不全が耐糖能異常惹起などに重要なこと、2) 肝臓におけるCOMT不全が、何らかの可溶性分子を介して多臓器におけるCOMTを制御する可能性、が示唆された。また、AMPKの肝臓における特異的ノックアウト実験を予定していたが、このようにsiRNA投与により効率的な肝臓における蛋白抑制が可能な現実を鑑みると、siRNA投与実験が1)慢性的抑制でなく、代償経路の活性化を考える必要が少ないこと、2) 動物舎管理の問題、などからしてアドバンテージが有ると考えられ、現在検討中。また、膵臓ベーター細胞における2-methoxyestradolによるインスリン分泌刺激効果と、その分子機序における1) AMPK依存性であるにもかかわらず、2) AMPK活性化のみでは必要十分ではないさらに詳細な分子機構が確認できた。現在執筆中である。
メトフォルミン投与下におけるCOMT不全の意義:既にCOMT阻害薬投与マウスにおいてメトフォルミンの効果が消失する興味深い表現型を得た。現在分子機構も少しずつ明らかとなっている。今年度には論文化する。COMTの発現調節機構の評価:ヒトCOMT 3'UTRを含むレポーターベクターは既に作成保有している。一つの問題点として、ヒトと齧歯類ではCOMT 3'UTR構造が異なるので、その両者を説明できる分子を現在スクリーニングしている。AMPK依存性の検討:AMPK臓器特異的ノックアウトマウスを用いる可能性もあるが、in vivo siRNA投与実験に変更も考えている。ただし、現時点ではin vitroでの解析を更に深め詳細な分子機構の解明を優先すべきと考えている。
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