研究課題
「COMT不全が妊娠高血圧腎症-メタボリックシンドロームに共通の病態である」という仮説に関して、次の結果を得ている------ ①高脂肪食投与(10週) C57BL6マウスにおいて、COMT蛋白発現が有意に抑制。2-ME(高脂肪食投与6週後より4週間)は、耐糖能-脂肪肝を改善。②2-MEによる耐糖能改善効果は、肝臓AMPKリン酸化と関連。③metforminを投与すると肝臓COMT蛋白が増加。metformin投与による肝臓AMPKリン酸化はCOMT阻害薬投与により抑制。④COMT siRNA投与でも高脂肪食投与マウスの耐糖能が悪化。⑤2週間高脂肪食摂取マウスにおける2-MEによる血糖低下は、インスリン分泌増加と関連;10週高脂肪食摂取に対する4週間2-ME慢性投与では血中インスリンレベルは低下し、インスリン抵抗性が改善。⑥MIN-6 細胞を用いて行ったin vitro検討では、2-MEによりインスリン分泌量が増加。⑦妊娠マウスでは、肝臓COMT蛋白発現が低下。妊娠マウスに対するCOMT阻害薬投与によりインスリン抵抗性が増加、2-ME投与はインスリン抵抗性を改善する事によりCOMT阻害薬投与による耐糖能悪化を改善。⑧COMT阻害薬投与によりアンギオテンシンIIに対する昇圧感受性が亢進し、2-ME投与によりその昇圧反応は抑制。2-MEの前駆物質(2-hydroxyestradiol: COMTの基質)投与ではその効果は得られない。上記結果からCOMTが様々な環境因子により発現が低下する蛋白である事、その是正が妊娠高血圧腎症-メタボリックシンドロームに共通の分子標的である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
2-methoxyestradiol (2-ME)の代謝改善効果は概ねAMPK活性化にあることを昨年までに突き止めていたが、なぜ2-MEによりインスリン分泌が増加するのかその分子機構は明らかにできていなかった。今年度の検討で、2-MEによるbeta細胞からのインスリン分泌増加の分子機序には、AMPKは活性化そのものでは十分ではなく、beta細胞の生存シグナルであるPDXのリン酸化増加とMST1抑制が重要であることを明らかとした。また、COMT/2-ME不全がangiotensin IIに対する昇圧感受性を上昇させることに関して、そもそもCOMT阻害薬投与/COMT siRNA投与されたマウスではベースの血中angiotensin II濃度が低いことが明らかとなり、angiotensin II刺激のない状況においてもCOMT不全が内因性angiotensin IIに対しても感受性を高めており、angiotensin II抑制により恒常性を維持している可能性を明らかとした。
現在論文をサブミットし、残念ながらmajor journalからは実験系の追加が必要であるとの指摘をいただき(COMTノックアウトマウスの使用など)、現在追加実験を行っており、近々再投稿行う予定。ただし、COMTノックアウトマウスは米国のラボからCOMTノックアウトマウス使用権限をいただけないこともあり、実施は難しい。マウスベーター細胞の実験に関してmin-6細胞を用いて行っていたが、単離膵島の実験を行いさらに生理学的意義を確認する予定。angiotensin IIに対する昇圧感受性の検討では、2-MEがangiotensin IIの受容体1を抑制することまではつきとめたので、さらなる詳細な分子機構を詰めていく。
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