研究課題/領域番号 |
26460404
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
古川 圭子 中部大学, 生命健康科学部, 教授 (50260732)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖鎖合成酵素遺伝子 / 酸性スフィンゴ糖脂質 / メラノーマ / メラノサイト / 炎症性サイトカイン / cAMP |
研究実績の概要 |
私達はこれまでに、ヒト メラノサイト及びメラノーマ細胞の糖鎖合成酵素遺伝子群の発現レベルを網羅的に解析し、メラノーマでは、酸性スフィンゴ糖脂質のGD3及びGD2の合成酵素遺伝子が発現増強し、GM1合成酵素遺伝子の発現が著しく低下していることを明らかにした。また、腫瘍の発生においては細胞と微小環境との相互作用が重要であるが、UVB照射したケラチノサイトの培養上清中に確認された炎症性サイトカインTNFα, IL-1, およびIL-6によりメラノサイトでGD3合成酵素遺伝子が発現誘導されることを明らかにした。 本研究において、メラノサイトではTNFαの刺激に加えて、メラノサイトの分化や色素形成を促進するcAMPシグナルの除去によってもGD3合成酵素遺伝子の発現が増強することが明らかになった。また、メラノーマではTNFα及びcAMP刺激による糖鎖合成酵素遺伝子の発現は影響されなかったが、TNFαの下流のシグナル分子であるIKKを阻害すると著しくGD3合成酵素遺伝子の発現が抑制された。即ち、メラノーマにおいてはTNFα非存在下で恒常的にIKKが活性化している可能性が示唆された。以上より、正常細胞と癌細胞では糖鎖合成酵素遺伝子の発現制御機構(TNFα受容体-シグナル伝達-転写のカスケード)が異なることが明らかになった。今後、メラノサイトとメラノーマにおけるNF-κBシグナル伝達分子の活性の差異に着目し、癌治療の基盤研究へと進展させる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに微小環境において、炎症性サイトカインのTNFαによってメラノサイトでGD3合成酵素遺伝子の発現が誘導されることを明らかにしてきた。 本研究により、メラノサイトの分化や色素形成を促進するcAMPシグナルの除去によってもGD3合成酵素遺伝子の発現が増強することが明らかになった。また、メラノーマではTNFα及びcAMP刺激による糖鎖合成酵素遺伝子の発現は影響されなかったが、TNFαの下流のシグナル分子であるIKKを阻害すると著しくGD3合成酵素遺伝子の発現が抑制された。即ち、メラノーマにおいてはTNFα非存在下で恒常的にIKKが活性化している可能性が示唆された。 以上より、正常細胞と癌細胞では糖鎖合成酵素遺伝子の発現制御機構(TNFα受容体-シグナル伝達-転写のカスケード)が異なることを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
メラノサイト及び各種メラノーマについて、 (1)IKK阻害剤Wedelolactone(WDL)などの各種のシグナル伝達分子阻害剤により、GD3合成酵素遺伝子発現に影響を及ぼす分子を検討する。(2)IKKなどNF-kBシグナル関連分子のリン酸化をwestern blottingで比較検討する。 また、 (3)メラノーマ及び各種因子刺激メラノサイト由来エクソソームを回収し、糖脂質及び糖脂質糖鎖合成酵素遺伝子について解析する。(4)RCAS/tv-aシステムを用いて、メラノーマ発症マウスを作製し、糖鎖合成酵素遺伝子群の発現を経時的に解析する。また、in vivoにおけるWDLなどの阻害剤の抗腫瘍効果も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度までの実験が順調に進んだ結果、消耗品の支出が予定より少額となり、更に、新事実が明らかになったので引き続き研究を発展させたい。具体的には、メラノサイトの糖鎖合成酵素遺伝子の発現がTNFα等の炎症性サイトカインにより誘導される機構について解析しているが、メラノサイトの色素形成に関与するcAMPシグナルにより糖鎖合成酵素遺伝子発現が抑制されることが明らかになったので、そのメカニズムの解明を進めたい。 また、メラノーマではNF-κB経路が常に活性化されて糖鎖合成酵素遺伝子が発現する可能性もあり、この解析も引き続き進めたい。
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次年度使用額の使用計画 |
(1)IKK阻害剤Wedelolactone(WDL)などの各種のシグナル伝達分子阻害剤により、GD3合成酵素遺伝子発現に影響を及ぼす分子を検討する。(2)IKKなどNF-kBシグナル関連分子のリン酸化をwestern blottingで比較検討する。 これらを検討するために、物品費、旅費、謝金等に使用する。具体的には、物品費は各種のシグナル分子阻害剤及び抗体、細胞培養試薬・器具の購入のために、旅費は日本癌学会や日本生化学会に参加して情報を収集するために、また、謝金は実験補助のために使用する。
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