研究課題/領域番号 |
26460405
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研究機関 | 姫路獨協大学 |
研究代表者 |
通山 由美 姫路獨協大学, 薬学部, 教授 (70362770)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 好中球 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、好中球によるNeutrophil extracellular traps (NETs)形成の分子機構の解明である。NETsは、好中球が投網のごとく変形して微生物を包み込む殺菌システムであるが、その形成プロセスはほとんど知られていない。本年度は、その解明の第一歩として、ヒト末梢血由来の好中球およびヒト白血病細胞株を分化させた好中球モデルを利用して、in vitroにNETs形成を再構築するシステムを確立した。NETs誘導刺激として、補体受容体を介した食作用に注目し、カンジダ菌(真菌)および黄色ブドウ球菌(細菌)とそれらの死菌の貪食を検討した。カンジダ菌の場合には、好中球による食作用とともに、速やかに周囲の好中球にNETsが誘導されたが死菌では誘導されず、食作用後の殺菌プロセスが NETs誘導シグナルに変換されていると考えられた。一方、黄色ブドウ球菌の場合には、単独生菌の食作用だけではNETs誘導に至らなかった。次に、NETs誘導試薬であるPMAを用いてNETs形成課程について検討した。1)クロマチン脱凝縮の進行状況、2)活性酸素種の生成、および3)ヒストンの翻訳後修飾の経時的変化の解析、さらに最終的なNETs形成の4)電子顕微鏡による解析により、NETs形成に重要な標的分子を探索した。その結果、低分子量GTPase,Rab27AがNET形成の初期細胞内シグナルとして重要な役割を果たすことを見出した。 Rab27Aノックダウン型の好中球モデルでは、(1) NADPHオキシダーゼに関わる活性酸素種の生成、(2)ヒストンのシトルリン化がほとんど起こらず、最終的なNETs形成も抑制されていた。さらに、Rab27Aノックダウン型好中球では、カンジダ菌の貪食依存性のNETs形成も抑制されており、真菌感染によるNETs誘導においても重要な役割を果たしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画であるNETs形成の再構築モデルとその解析システムの確立についてはほぼ順調に進み、標的分子としてRab27Aの重要性について証明できた点などは計画以上に進展したといえる。一方で、補体受容体を介した食作用をNETs誘導刺激とした場合、カンジダ菌ではNETs形成を誘導できたが、黄色ブドウ球菌では誘導できず、感染微生物による差異を考慮して工夫することが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きNETs形成過程を分子レベルで解明する研究に取り組む。平成26年度にNETs形成に重要な候補として選択した標的分子の中で、具体的な検証に取り組めていないRab27A以外の分子について、遺伝子欠失型および変異型の好中球モデルを作成してその効果を検証する。とりわけ、(1) NETs形成開始シグナル依存性の抗菌顆粒の細胞内動態、および(2)クロマチン脱凝縮プロセスに影響を及ぼす核内ヒストンの翻訳後修飾に注目して標的分子の影響を解析する。さらに、新たな視点として、感染微生物によるNETs 形成において、(3) NETsを誘導またはNETs抵抗性の菌体由来物質の探索をおこない、NETs形成とNETsの機能をコントロールするin vitroシステムの構築に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費、とりわけ遺伝子改変に必要な試薬類を予定より少量ですませることができたこと、受託を予定していた電子顕微鏡解析を共同研究者に依頼できた事等により予算に余裕が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後はその費用を、クロマチン脱凝縮プロセスに影響を及ぼす核内ヒストンの翻訳後修飾の同定のための抗体の購入、およびNETs形成と抵抗性に関わる菌体由来物質の同定(受託 質量分析)のために有効に利用する。
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