研究実績の概要 |
ASH1はTrithoraxグループに属するクロマチン制御因子で、Hox遺伝子群の発現維持に必要とされるが、Hox遺伝子以外のゲノム標的については良く分かっていなかった。本研究では赤血球系への分化能を有するK562白血病細胞でASH1のChIP-seq解析を行い、ASH1のゲノム標的を網羅的に解析した結果、グロビン遺伝子の発現制御に関わる複数の遺伝子がASH1の直接標的となっていることが分かった。本年度はASH1結合パターンによるASH1結合部位のクラスタリングを行い、各群に於けるクロマチン構造の特徴を、ENCODEデータベースに含まれるヒストン修飾及びクロマチン制御因子のChIP-seqデータを基に解析した。K562細胞に於ける約1,600箇所のASH1結合部位は7つの群に分類され、その中の1群では大部分が遺伝子プロモータ領域に局在し、かつH3K36メチル化が低くH3K4メチル化とH3K27アセチル化レベルが高く、RNA polymerase IIの結合を認め、転写活性が高いことが分かった。しかも、この群のASH1標的遺伝子の多くはZincフィンガー蛋白質を含む転写因子であり、これには既にグロビン遺伝子の発現制御に関わることが知られている複数の因子が含まれていた。これらプロモータ領域のASH1標的の他に、遺伝子コード領域や遺伝子間領域にもASH1が結合しており、特にH3K9メチル化とH3K36メチル化を同時に受ける特殊なクロマチン構造を取る領域が多いことが分かった。これらの新たな知見は、ASH1が転写因子を介して間接的にグロビン遺伝子の発現を制御するマスター遺伝子であることを示唆しており、これまでASH1遺伝子のノックダウンやノックアウト実験で観察された現象とも概ね一致しており、サラセミアの病態解明において重要な知見である。
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