ヒト膀胱尿路上皮癌の本邦での発生頻度は近年増加傾向にあり、その死亡率も決して低くはない。最近の疫学データでは、本邦での罹患率の男女比は3:1で男性に多く罹患率も男性のみが増加傾向であることから、性ホルモンがヒト膀胱尿路上皮癌発症の男女差に関与している可能性が示唆されている。我々は、これまでヒト膀胱尿路上皮癌組織における免疫組織化学的検討、ヒト膀胱尿路上皮癌培養細胞株(T24)での定量RT-PCR検討において、ヒト膀胱尿路上皮癌細胞ではエストロゲン受容体の1つであるERβの発現が高いことを確認し、加えて同細胞株でのERβのアゴニスト投与が癌細胞の遊走能を抑制することを証明した。また、これらのヒト膀胱尿路上皮癌細胞ではエストロゲン合成酵素であるsteroid sulfatase (STS)とestrogen sulfotransferase (EST)が発現し、局所でのエストロゲン産生に関与していることを発見した。 さらに我々は、同培養細胞株に対するPCRアレイ解析を行い、コントロール群に比較してERβアゴニスト投与群ではMMP11の発現が有意に低下していることを確認した。 一方で、我々が行った免疫組織化学的検討ではヒト膀胱尿路上皮癌組織におけるMMP11発現度とSTS発現度の間に有意な相関が認められた。以上の結果から、局所で産生されたエストロゲンはヒト膀胱尿路上皮癌細胞に発現するERβに作用し、MMP11の発現を抑制してヒト膀胱尿路上皮癌細胞の浸潤抑制に関わっている可能性が示唆された。
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