研究実績の概要 |
膵(neuroendocrine tumor: NET)では、以前からprogesteron recepor: PRが高率に発現し、PR陽性所見は良好な予後と相関することが報告されているが、PR発現が腫瘍増殖にどのように関与するかは明らかでない。膵NET組織におけるPRA, PRB, cyclin D1:CCND1の発現を定量的に評価し、WHO分類、腫瘍増殖能や非腫瘍組織との比較を行った。次に、ヒト膵NET培養細胞QGP1を使用したin vitro実験を行った。QGP1はPRA-PRB+であり、PR subtype A(PRA)強制発現株(PRA+PRB+)を作製した。これにPR agonist (progesteron: P4)とPR antagonist (RU486)を投与し、細胞増殖能、CCND1, C-fos,C-junのmRNA定量の比較を行った。PRA発現は、NETにおいて非腫瘍性ラ氏島よりも低く、WHO分類の高いPNETで有意に減少した(p=0.04)。 CCND1発現はNETにおいて非腫瘍性ラ氏島よりも高く、WHO分類の高いPNETで有意に増加した(p=0.035)。培養細胞QGP1を使った実験では、 PRA-PRB+ はP4添加により細胞増殖能が有意に増加したが(p=0.006)、PRA+PRB+ではP4添加で細胞増殖能に増加は認められなかった(p=0.42)。また、PRA+PPB+状況下でP4添加により、CCND1, C-fos, C-jun発現が低下した(CCND:p=0.02, C-fos:p=0.007,C-jun:p=0.001)。PRAはPR agonist (P4)の存在下においてNET組織中でPRBの有する腫瘍増殖能を抑制し、さらに、細胞周期に促進的に関与するCCND1, C-fos, C-jun 発現を低下することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵NETにおける PRA, PRB の発現状況をヒト組織および培養細胞で確認し、ヒト組織における研究においては、PRA が細胞増殖能、転移能と負の相関関係にあることを確認した。ヒト組織および培養で確認された PRAの細胞増殖抑制作用は、培養細胞を使用した実験によってその機序の一部を解明することができた。PRAを発現しないNET細胞では、progesteron inhibitor の投与によって細胞増殖能が上昇し、細胞周期関連因子の遺伝子発現が上昇するのに対し、PRA発現 NET細胞は、細胞増殖が認められず、細胞周期関連因子の発現低下が認められ、NETのPRA が PRB の存在下において細胞増殖抑制に関与することが示された。この結果は科学雑誌に掲載された(Yazdani, S, Kasajima, A et al. Neuroendocrinology 2015 doi; 10.1159/000381455)。
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今後の研究の推進方策 |
p27(cyclin-dependent kinase inhibitor 1B: CDKN1B)やp21 (CDKN1A) は核内転写因子で、cyclin E、cyclin dependent kinase 2; CDK2との複合体やcyclin D、CDK4、などと複合体を形成し、細胞周期の進行を制御しG1期で細胞周期を停止させ細胞増殖を抑制する事が知られている。p21 や p27の発現欠失は様々な悪性腫瘍で予後不良因子であることが報告されているが、PNETおよびgastrointestinal NET; GI-NETの予後不良因子であることも最近示され大きな注目を集めている(Kim et al. Cancer Res Treat 2014)。一方PNETは性別に関わらず腫瘍細胞で高率にprogesteron receptor (PR) を発現し、転移抑制や生存期間の延長に関係することが報告されているが、その機序は不明のままである。我々はPR陽性の肺腺癌で、progesteron投与がp27の過剰発現を介し細胞増殖を抑制することを報告した。一方でestrogen receptor (ER)とPRの両者を発現する乳癌ではprogesteron投与がp21, p27発現を低下させ細胞増殖を促進することが報告されている(Kariagina et al. Hormones & cancer. 2013;4(6):381-90.)。細胞周期を直接的に制御するp27は、PNETの新しい治療標的として期待される。以上のより、我々は高率にPR陽性を呈するPNETにおいてp21, p27発現の制御を目的とした新しい治療戦略の構築を目指す。
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