[研究目的]大腸癌には、①de novo発癌(正常粘膜からの癌化)、②adenoma carcinoma sequence (ACS)(腺腫の癌化)、③serrated neoplasia pathway (SNP)(SSA/Pに代表される鋸歯状病変からの癌化)、④ inflammation dysplasia carcinoma sequence(炎症性発癌)、の4つの経路がある。本研究は、②~④でDNA損傷修復応答がどの様に関与しているかを明らかにすることを目的とした。[材料と方法]ホルマリン固定パラフィン包埋内視鏡的切除および外科切除例を対象とした。②としてSSA/P併存大腸早期癌24例、③として大腸管状腺腫71例、腺腫併存早期癌60例、④として潰瘍性大腸炎(UC)粘膜に発生した前癌病変であるdysplasia14病変、粘膜内癌9病変、粘膜下層以深浸潤癌9病変を検索した。DNA損傷(二重鎖切断:DSB)はγH2AX発現で、DNA修復応答(DDR)はγH2AXと53BP1の共局在率で評価した。[結果]1.SSA/Pは腺腫に比べDSBの頻度が低かった。2.SSA/P、腺腫を発生母地とした癌ではDSBに有意差はなかった。3.UCの非腫瘍粘膜では正常に比べ有意にDSBが起きていた。4.UCの腫瘍性病変では炎症性腸疾患を合併しない腫瘍とDSBに有意差はなかったが、浸潤癌では高頻度でDDRの破綻が起きていた。[考察]大腸癌はその発生経路によりDNA損傷修復応答に違いがある。ACSでは前癌病変である腺腫の段階でDSBが生じ、浸潤癌でDDRの破綻が起きているが、SNPでは癌化によりDSBが生じ、炎症性発癌では非腫瘍粘膜で既にDSBが生じ、粘膜内腫瘍の段階でDDRの破綻が起きている。
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