研究課題
胃癌は日本における癌死亡率の第二位を占める。診断技術の進歩により、初期に発見される早期胃癌の治療成績は向上したが、悪性度が高まった進行胃癌の治療成績は良好ではない。この原因として、進行胃癌に対して外科治療以外に効果的な補助療法が確立されていないことが挙げられる。特に、分化度の低い低分化型胃癌は高分化型より、リンパ節や腹膜への転移の頻度が高く、抗癌剤による化学療法が治療成績を大きく左右する。本研究では予後不良な低分化型胃癌に対する分子標的治療の実現を目的とする。平成26年度は、低分化型胃癌14症例および低分化型胃癌細胞15株についてゲノムコピー数と遺伝子発現の異常を網羅的に解析し、ゲノム異常に伴い異常発現する遺伝子のスクリーニングを行った。その結果、低分化型胃癌に特徴的なゲノムコピー数異常と異常遺伝子の抽出に成功した。予想したとおり、臨床検体で観察された異常は胃癌細胞株においても検出された。そこで、将来的に機能解析を行うために細胞株を用いた解析を中心に進めることとした。平成27年度は平成26年度に同定された遺伝子が低分化型胃癌の癌化能にどのようなメカニズムで貢献するか機能解析を行った。具体的には、抽出された遺伝子に対するsiRNAを低分化型細胞株へ導入し、細胞増殖能が変化するか解析した。中でも低分化型胃癌細胞株に特異的にゲノム増幅を起こしていたSDC1遺伝子を発現抑制すると、高分化型(MKN74)では増殖に影響が見られなかったのに対し、低分化型細胞株(NUGC3, 44As3)では強く増殖が抑制された。これらの結果をもとに、平成28年度はさらに高分化型癌と低分化型癌で頻度に差があるゲノム異常を解析し、新規の低分化型癌特異的な異常を同定する。さらに、同定された異常と癌との関わりを解明するために、発現抑制、過剰発現、等を中心に解析を行う。
2: おおむね順調に進展している
我々は低分化型胃癌に特徴的な遺伝子異常を抽出し、治療標的として有望な異常の同定を目的としている。平成26年度は、低分化型胃癌複数例および低分化型胃癌由来の細胞株に対し、網羅的な遺伝子異常解析を行った。その結果、研究実績の概要に示すように、いくつかの特徴的な遺伝子異常の抽出に成功した。平成27年度は、抽出された遺伝子の中からいくつか選別し、発現抑制による機能解析を行った。その結果、SDC1が低分化型胃癌細胞株特異的に増殖能への関与を示した。このように、当初の計画を全て完了し、来年度の計画につながる結果も得られた。したがって、研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
平成26年度に低分化型胃癌の臨床検体および細胞株について遺伝子異常の網羅的解析を行った。そして、本年度はその解析により得られた低分化型胃癌に特徴的な異常遺伝子が、どのように癌化に貢献するか、について培養細胞レベルで機能解析を行った。その結果、SDC1を含むいくつかの遺伝子を発現抑制すると低分子型胃癌特異的に増殖能への関与が認められた。最近は標的遺伝子以外にもその遺伝子と同じパスウェイに乗っている遺伝子を標的とした分子標的治療も行われている(例えば、KRAS変異を持つ癌腫に対してMEK阻害剤を使う、など)。したがって、我々が抽出した異常遺伝子が乗っているパスウェイを明らかにすることで、より効果的な分子標的治療を実施することができると考えている。平成28年度はこの点について、培養細胞レベル、実験動物レベルで解析したい。
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