研究課題
多重がん症例を対象に、腫瘍部および前癌病変などをマイクロダイセクションし、DNAやRNAを抽出し、遺伝子変化の解析を進めてきた。17番染色体にはp53, FLCN, BRCA1など複数のがん抑制遺伝子が存在することから、多発性腫瘍を発症する患者のがんにおける17番染色体の状態に着目した。遺伝的にFLCN変異を有する患者は全身臓器にがんや嚢胞を多発する。散発性嫌色素性腎がんでは17番染色体ロスが高率に起こることが既に知られているが、凍結検体を用いたFLCN変異保因者の嫌色素性腎がん (n=9)では17番染色体にコピー数にゲインやロスは認められず、1-22番染色体全体を通して殆ど安定したコピー数を呈した。また組織において17番染色体セントロメア領域を認識するFISHを用いて散発性腎がんと比較したが、FLCN変異保因者の腎がんはほぼ全例でダイソミーであるのに対して、散発性腎がんでは殆どがモノソミーであった。これらの結果から、がんを多発しやすいFLCN変異保因者の病変で染色体の大規模ロスは考えにくくなった。更にコピー数を詳細に解析すると、FLCN変異保因者の多発がん部において多数のヘテロ接合性消失(LOH)が見つかったが、いずれもコピー数に変化がない( copy neutral) LOHであった。染色体コピー数が変化しない一方で、免疫染色やウエスタンブロットを用いて検討すると、これらの腫瘍部では有意にmTORシグナル経路が亢進していた。またメチル化解析を行ったが、がん部における有意なメチル化は認められなかった。遺伝的背景が不明な婦人科臓器多重がん例をマイクロダイセクションによってWntシグナル制御に関与するCTNNB1遺伝子について検討したところ、遺伝子変異の有無によって多重がんの補助診断ができる症例が出たため、症例数を増加している。
3: やや遅れている
当初発癌周囲の炎症細胞を対象に研究する計画であったが、腫瘍部におけるNGS(次世代シーケンス)やCNV (コピー数解析)から得られるデータを早急に解析して世界に発信する必要がでてきた。現在、遺伝性が疑われる多臓器癌症例が当方に集積されるシステムが稼働しており、それらの原発・転移診断は診療にも大きな影響がるため、実地に即した研究にシフトしている。研究手法や技術は、いくつもの癌研究解析に応用できるため、引き続き婦人科癌や泌尿器腫瘍を対象に発癌過程に影響する炎症性微小環境についても症例解析を重ねている。
多臓器癌が異時性に起こる可能性が高い疾患背景を有する症例を日常診療から拾い上げていく工夫につながる研究を発展させる。同一患者の過去のFFPE(パラフィンブロックとして保存している)検体を利用した異時性多発癌の背景疾患を客観的に推定できる疫学論文を発表するとともに、形態診断と補助診断の組み合わせから、精度の高い病理学的診断や診療方針に介入できるよう、知見を重ねていきたい。その中で発癌する例、しない例の分岐点に炎症細胞がどう介入しているのか、シグナル経路の解明を行っていく予定である。発癌の背景にある炎症細胞や間質細胞についても基質関連酵素を中心に発現変化を検討する。
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