研究課題/領域番号 |
26460432
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
沢辺 元司 東京医科歯科大学, 大学院保健衛生学研究科, 教授 (30196331)
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研究分担者 |
三浦 ゆり 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究副部長 (00216574)
津元 裕樹 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (00409385)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 動脈 / 老化 / プロテオーム / 動脈解離症 |
研究実績の概要 |
1.具体的内容 (1) 目的 動脈老化は高齢者の高血圧、うっ血性心不全、大動脈瘤の原因であり、大動脈解離症は循環器系致死性疾患である。動脈老化の分子機構は不明であり、非症候性大動脈解離症の原因は不明である。本研究の目的は動脈中膜組織のプロテオーム解析により動脈老化、大動脈解離症のタンパク質発現、タンパク質翻訳後修飾の病態を明らかにすることである。 (2) 対象・方法 動脈老化研究に用いた症例は3群であり、高齢群が3例(平均年齢90歳)、中年群が5例(同57歳)、若年群、3例(同27歳)である。大動脈解離研究に用いた症例は年齢を調整した動脈解離群が5例、対照群が6例である。解剖時に胸部下行大動脈を採取し中膜組織のみを用いた。方法としてはiTRAQ 法 による比較解析を行った。具体的には中膜組織からのタンパク質を抽出し、アセトン沈殿、還元、アルキル化、トリプシン消化後、iTRAQ試薬を用いてラベルし、TOF/TOFTM 5800を用いたLC-MS/MSによる分析を行い、Protein Pilot Softwareを用いて解析した。 (3) 結果 プロテオーム解析により同定されたタンパク質数、1.5倍以上の変動(1.5以上または 2/3以下)が見られたタンパク質について検討を行った。 動脈老化では351のタンパク質を同定し、有意に増加したタンパク質は30であり、減少したタンパク質は26であった。一方、大動脈解離では319のタンパク質を同定し、有意に増加したタンパク質は20、減少したタンパク質は12であった。 2.意義と重要性 本研究では、iTRAQ法を用いることにより、これまで行ってきた二次元電気泳動によるプロテオーム解析よりはるかに多数のタンパク質を同定することが出来た。本研究により、動脈老化の機序解明、大動脈解離症の病因の解明、予防の開発に繋がると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度のiTRAQ法を用いた検討により、動脈老化、大動脈解離症で変動するタンパク質を多数同定することに成功した。動脈老化では主に平滑筋収縮関連タンパク質のアクチンが減少し、アクチン結合タンパク質、トロポミオシン、ミオシンなどが増加、アクチンの脱重合関連タンパク質が減少することが明らかになった。これらは、アクチンの減少による平滑筋機能低下を補うために、その他のタンパク質が平滑筋収縮能を促進させる変化を起こしたものと考えられる。また、酸化ストレス関連タンパク質であるExtracellular SOD、Glutathione S-transferase、Thioredoxin などが増加することが明らかになり、加齢により大動脈組織が酸化ストレスにさらされている可能性が示唆された。さらに動脈老化では、細胞外基質を分解するある種の加水分解酵素の著明な増加が認められた。また大動脈解離症では、テネイシンCの増加が見られた。このタンパク質は様々なストレスに応答して増加し、組織の維持や保護を行い、過度の炎症では組織の損傷を来す。従って、原因か結果か分からないが、テネイシンCが大度脈解離症の発生に何らかの役割を有すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
(今後の推進方策) iTRAQ法を用いたプロテオーム解析により同定された動脈老化、大動脈解離症で変動する多数のタンパク質に関してウェスタンブロットにより変動を確認する。確認の取られたタンパク質に関して免疫組織化学的検討、電子顕微鏡的検討を行い、それらの分子機構に関して検討する。 (次年度の研究費の使用計画) 来年度の研究費は主にウェスタンブロット、免疫組織化学的解析に用いる。必要に応じて、電子顕微鏡的検討、プロテオーム解析、学会発表、論文作成にも用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
免疫組織化学的解析に用いる抗体を海外から輸入して購入する予定で予算を残しておいたが、年度内に購入できないことが分かったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度にて研究用消耗品を購入する予定である。
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