研究課題/領域番号 |
26460438
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
土橋 洋 自治医科大学, 医学部, 准教授 (90231456)
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研究分担者 |
北川 雅敏 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50294971)
坪地 宏嘉 自治医科大学, 医学部, 准教授 (50406055)
後藤 明輝 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90317090)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肺癌 / Akt / 遺伝子増幅 / microRNA / 遺伝子多型 |
研究実績の概要 |
肺癌で、細胞内エフェクターとして機能するAktの、周辺因子も含めた活性化制御の解析を計画し、2014年度はヒト手術材料を用いた多面的な解析を実施した。 1. 既に収集した症例も含む108例 (全組織型) における免疫組織染色の結果、Akt過剰発現 (pan-Akt陽性) は61%, 活性化 (p-Akt陽性)は42%, Akt1, Akt2は47%, 41%に、Akt3は23%に認めた。これらの発現率に組織型、喫煙習慣との統計的有意差は認めなかった。 2. 臨床病理学的検索では、p-Akt陽性群, 特に細胞質陽性群、Akt2発現群では有意にリンパ節転移の頻度が高かった。 3. FISH法による遺伝子増幅解析では、AKT1遺伝子は増幅を全症例の4%に、高レベルpolysomyは8%、AKT2は増幅を3%、高レベル polysomyを11%に認めた。AKT3遺伝子の増幅例は無く、高レベルpolysomyによる増加を10%に認めたが、遺伝子増加とAkt3蛋白質の発現は一致しなかった。AKT1遺伝子の増加は腫瘍進展度(pT)と相関した。 4. AKT1遺伝子、AKT2遺伝子のみの増加群各15例を用い、各群で変動するmicroRNA(miR)を2000種搭載Human miRNA oligo chip arrayで解析した。両群間で発現に2倍以上の差があり、かつAKT遺伝子増加の無い群よりも発現の高いmiRを112種同定した。その中で、特に癌の増殖、浸潤、転移等に関わる数種類のmiRを選んでq-RT PCRによるvalidationを行っている。 5. Illumina社のCytoSNPチップを用いた解析で、AKT1のrs2498794における多型は短喫煙歴群(44年未満), 少量喫煙群(<20本/日)ではT-alleleで有意に癌罹患性が低かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 当初計画した病理組織検体におけるAkt蛋白質、isoformの発現、活性化の免疫組織染色による解析は終了し、臨床病理学的意義も明らかにできた。 2. 遺伝子解析に関しても、増幅はAKT1-3の3種遺伝子に関して詳細に解析を行い、肺癌におけるAKT1,2遺伝子増加の病理学的意義、AKT3遺伝子の特異性、肺癌への関与の低さが明確となった。遺伝子多型解析では現在までに報告の無かったAKT1のrs2498794部位の病理学的意義を初めて明らかにした。以上1,2は、研究会、学会と英文論文で発表、あるいは投稿済みである。AKT3の候補多型部位に関する病理学的解析も並行している。 3. 遺伝子増加から見た腫瘍のheterogeneityの解析に関しては、AKT遺伝子増加の頻度が低く、多数例での解析が困難なため微量な遺伝子増加も捉える事を目的にMLPA (multiplex ligation dependent probe amplification)法での定量解析を開始した。これに必要なAKT1, AKT2専用のプローブをデザイン、合成し、解析を開始した。 4. Akt/mTORの増加に伴って変動する遺伝子、蛋白質の解析は、mRNA, miRNAの両方のmicroarray解析が終了し多種の候補を得た。mRNAから得たmTOR関連候補蛋白質に関しては現在免疫染色で発現解析を行っている。miRNAは上記の通り、validation studyと臨床病理学的意義の検索を先行している。 5. 共同研究者(秋田大学)によりmiRNA解析、研究協力者(金沢医大・浜松医大)らによるMLPA解析、当施設での試料収集と臨床病理学的解析も順調で、研究グループの密な協力関係のもとに進行している。 実験の都合上、上記の解析を優先したが、上記因子の機能解析も行う計画であり、総体的にはほぼ順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
1. mRNA-microarrayで抽出した、Akt/mTOR系の蛋白質の過剰発現により変動する因子について、validation studyとして病理組織切片で免疫組織染色, immunoblotting、定量的RT-PCRで発現, 局在、リン酸化の検討を行い、臨床病理学的意義を検討する。既に大きく変動する因子1種類についてはパラフィン切片上での染色を進めている。 2. oligo chip arrayで抽出した AKT1、AKT2遺伝子の増加により変動する112種microRNA(miR)に関しては、文献で特に癌の増殖、浸潤(特にepithelial-mesenchymal transition)、転移等への関与が報告されている3種類でTaqman法による定量的RT-PCRによるvalidationを行っているのでこれを継続する。また、従来のFISH法のみによる解析では捉えられなかった微小な遺伝子増加をMLPA (multiplex ligation dependent probe amplification)法で解析しており、genomic DNAを抽出した30例の解析が終了した時点で、上記の候補miRNAに関する発現のvalidation studyを行う。 3. 多型解析ではAKT1の1部位については報告したが、AKT3についても糖尿病、高血圧、喫煙歴、肺癌罹患性等と関連を示す候補部位が確認されており、多数例での解析を進める。 4. mRNA array, miR arrayで抽出した上記因子の肺癌手術材料でのvalidationが確認された後、肺癌培養細胞を用いた実験系で導入、あるいはsiRNAを用いた抑制実験を行い、機能解析を開始する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
1. 遺伝子解析の中で、特にmicroarray解析が、少数の手術検体を用いた系で終了できたため予定より費用がかからなかった。 2. 投稿論文が受理され、掲載が確定したが、2015年度分となったために掲載費、別刷りの経費も2015年度に使用とする事となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度への繰り越しができた事で、解析のターゲットとする蛋白質、microRNAの数、また解析予定の肺癌症例の数もより多数に設定することとした。
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