研究課題/領域番号 |
26460441
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
佐藤 雄一 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (30178793)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 微乳頭肺腺癌 / 樹立細胞株 / 単クローン性抗体 / 自己抗体 / セクレトーム解析 / 可移植性腫瘍 |
研究実績の概要 |
微乳頭肺腺癌(MPPAC)は、初期から高度のリンパ管侵襲・転移を起こし予後不良であり、さらに肺癌だけでなく、様々な臓器の腫瘍でも共通して予後不良である事が報告されている。この研究では、世界で初めて樹立した微乳頭肺腺癌細胞株を用いた各種プロテオーム手法を駆使して、新規腫瘍マーカーを獲得することが目的である。そのために、まずは腫瘍細胞株の特許出願を行い、さらに獲得した新規マーカーを出来るだけ特許出願していくことを目指した。H27年3月16日に「ヒト微乳頭肺腺癌細胞株及びその利用」という発明の名称で特許出願した(研究成果参照)。H27年度中に国際特許を出願予定。樹立した細胞名はKU-MPPAC細胞とした。 また、今年度の実験計画の一つである、この細胞のAMeX固定細胞を免疫源に、最終的にKU-MPPAC細胞と反応する単クローン性抗体を62個作製し、10%ホルマリン固定パラフィン包埋されたMPPAC組織と反応する20個のクローンを選別した。現在、免疫沈降法を用いて抗原の同定中。さらに、KU-MPPACの生細胞を免疫源に膜に対する抗体の作製を行っている。KU-MPPAC細胞をSCIDマウス皮下に移植し、移植腫瘍の作製に成功した。さらに。その細胞塊を新たなSCIDマウスに移植した。2代目の細胞も腫瘍塊を作った。これらの腫瘍組織を培養系に持って行ったところ、元の細胞株と同様の増殖形態で培養できることを確認した。また、SCIDマウス腫瘍をホルマリン固定し、HE染色したところ、臨床材料で認められる構造に類似したMPP構造を取っていることを確認した。MPPACのモデル動物として治療実験等に応用可能な系の樹立が出来た。その他、この細胞株の二次元電気泳動法、分泌タンパク質のセクレトーム解析、この細胞株の基となる患者の血清とこの細胞を用いた自己抗体解析等を順調に進行中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず大きな成果として、特許出願したことがあげられる。このことにより、今後獲得したMPPAC腫瘍マーカーの更なる特許申請が可能となる。1)単クローン性抗体の作製:AMeX固定したKU-MPPAC細胞を免疫源に、この細胞標本を免疫染色によるスクリーニング法を用いることにより、62個の単クローン性抗体を作製した。その中で10%ホルマリン固定パラフィン、パラフィン包埋されたMPPAC組織と反応する20個の抗体を選択した。現在、免疫沈降法による抗原同定を行っている。さらに生細胞を免疫源に治療標的分子の獲得に向けて、細胞膜に対する抗体の作製を行っている。2)自己抗体解析:KU-MPPAC細胞株を二次元電気泳動法で展開し、この細胞の元となった治療前の患者血清を一次抗体として用いることにより、自己抗体が反応するタンパク質を同定する。申請時、すでに21個のタンパク質を見出しており、今年度は新たな実験は行わなかった。3)セクレトーム解析:無血清培地で生育しているKU-MPPAC細胞株の培養上清をアセトン沈殿法で濃縮し、低分子量タンパク質を対象としたトリシンを用いた二次元電気泳動法を行うことで、この細胞の分泌タンパク質の検討を行った。その結果、116のタンパク質スポットを確認し、現在まで25スポットについてタンパク質名を決定した。4)移植腫瘍の樹立:SCIDマウス皮下に腫瘍細胞を注射することにより、移植腫瘍の作製に成功した。 5)二次元電気泳動法による検討:KU-MPPAC細胞と既知の肺腺癌細胞株(A549とLC2-ad細胞)をトリシン・二次元電気泳動法で分離し、両者のタンパク質発現を比較した。KU-MPPAC細胞で発現が1.5倍以上ある13の低分子量タンパク質を同定した。
|
今後の研究の推進方策 |
H26年度に行う予定の研究は、そのほとんどが年度をまたぎ、H27年度も研究を継続する予定。昨年と今年度の2年間で、各種のプロテオーム解析手法を用いてKU-MPPAC細胞を用いたMPPAC特異的タンパク質の解析を終了する予定である。それぞれの方法では幾つかのマーカータンパク質が獲得されているが、同じ実験を複数回繰り返すとともに、実験方法を変更して解析を行い、出来るだけ多くのマーカー候補タンパク質を獲得する予定である。さらに、MPPACは早期から高度なリンパ管・血管侵襲や転移を起こすことと、治療抵抗性であることから、極めて予後不良であることが知られている。癌幹細胞の特徴の一つとして、治療抵抗性があげられる。MPPACはより幹細胞に近い性質を有している可能性もある。このことから、樹立したKU-MPPAC細胞へ山中4遺伝子を導入し、癌iPS細胞を作製し、その特徴を詳細に検討することや、この細胞を免疫源として単クローン製抗体を作製する予定となっている。この実験に関しては、癌iPS細胞で実績のある横浜市立大学医学部微生物学研究室の梁 明秀教授との共同研究で進めていく。また、有用と思われるマーカータンパク質に関しては、MPPAC病理組織や患者血清を用いた検討を行う予定である。 昨年度にKU-MPPAC細胞と既知の肺腺癌細胞株A549細胞のmRNA 発現解析をTAKARAに依頼し、GeneChip Expression Array法で検索した。このデータの解析を進めるとともに、mRNA解析と当研究室で同定されたタンパク質のデータで共通のものは、最優先で詳細な検討を進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
H26年度行った研究のほとんどが、膀胱癌や他の組織型の肺癌など、別の対象でも行っている手法であり、試薬等の消耗品に関しては所有しているものが多く、それらを先に使用したため、次年度の使用額に変更が生じてしまった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費は交付予定額である1,200,000円に加えて平成26年度の未使用額である782,244円を加えた合計1,982,244円である。この合計額を用いて、各種プロテオーム解析に使用する試薬など、そのほとんどを消耗品の購入に充てる予定である。また、癌iPS細胞の作製に必要な試薬、培養細胞培地等の購入にも充てる。また、患者血清を用いた検討に使用するprotein array用のスライドグラスの購入にも充てる。その他として、成果発表のための学会出張旅費として100,000円と外国語論文の校閲料として100,000円を計上する。
|