前年度までに、GLI1、およびその対照としてLacZ遺伝子を安定導入した滑膜肉腫細胞株SW982を樹立し、in vitroにおける浸潤・遊走能を検討することで、GLI1がこれらの悪性能を制御している可能性を明らかにした。また、同細胞株を免疫不全マウス尾静脈より注射し、肺における転移性病変の形成能を比較したところ、GLI1遺伝子導入株において肺転移病巣が増加しており、ヘッジホッグシグナル経路が、生体内における転移巣の形成を亢進させることを実験的に証明した。 一方で、滑膜肉腫の発生・進展メカニズムの解析を目的として、滑膜肉腫細胞株、およびヒト正常間葉系細胞におけるGLI1、およびSYT-SSX1融合遺伝子の標的遺伝子群をcDNAマイクロアレイを用いて網羅的に解析し、CXCR4を含む転写標的候補遺伝子群を同定した。 National Institutes of Health/National Cancer Institute (NIH/NCI)との共同研究として、GLI1、およびSYT-SSX1融合遺伝子の転写標的候補遺伝子群より、いくつかの遺伝子を選択し、滑膜肉腫組織を含む紡錘形細胞肉腫を免疫組織学的に解析、滑膜肉腫の診断に有用な組織学的診断マーカーの同定を試みたが、同腫瘍に特異的な発現を示すタンパク質の同定には至らなかった。 今後も、GLI1-CXCR4シグナル経路の治療標的としての可能性や、滑膜肉腫の病理組織学的診断マーカーの解析・同定を継続していく予定である。
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