研究課題
本研究は、インフルエンザ脳症ならびにインフルエンザに併発した急性呼吸促迫症候群(ARDS)で死亡したヒトの臨床病理検体を用いて、①病理組織における血液脳関門並びに血液肺胞関門の形態解析、②組織切片から回収されるウイルスゲノム解析、③組織切片における炎症性メディエーターの発現解析によりインフルエンザの重症化に関与する因子を解明することを目的とし、本年度は以下の成果を得た。1.インフルエンザ脳症の病理学的解析:脳組織は浮腫が強く、血漿成分の脳実質への漏出がみられた。グリア血管複合体を免疫組織化学で解析した結果、血漿蛋白漏出部分では、血管周囲でアストロサイトのマーカーであるGFAP、アクアポリン4のシグナルが減弱している傾向がみられ、タイトジャンクション蛋白であるClaudin5は血管内皮細胞に検出された。GFAP染色でアストロサイトの突起崩壊を示すClasmatodendrosisがみられた。サイトカインストームを呈した脳症例では延髄と中脳でIL-6 mRNA量が相対的に高かった。2.インフルエンザーARDS剖検肺の解析:パンデミック発令当初の2009年インフルエンザウイルス(A/H1N1pdm09)の中には肺胞上皮細胞に感染するクローンが存在しており、ウイルス性肺炎によるARDSを呈した例が見られた。パンデミック終息(2010年8月)後にARDSを併発した例を病理学的に解析したところ、肺は全ての小葉で進行度が一様のびまん性肺胞傷害像を呈したが、肺胞上皮細胞にウイルス抗原はほとんど検出されなかった。肺から回収したA/H1N1pdm09のHA遺伝子は気管や気管支上皮細胞に感染しやすい塩基配列を示した。パンデミック終息後のA/H1N1pdm09-ARDSはウイルス性肺炎によるARDSではなく、インフルエンザウイルスに対する宿主の過剰な免疫応答により発症したことが考えられた。
3: やや遅れている
・インフルエンザ脳症例において、血液脳関門(グリア血管複合体)のMMP-2、MMP-9ならびにインテグリンβ1などの構造支持型インテグリンの免疫組織化学の解析が遅れている。・H5N1亜型鳥インフルエンザウイルスヒト感染症のホルマリン固定パラフィン包埋肺組織から回収されるインフルエンザウイルスゲノムの検索は、検体中のウイルスRNAが断片化し、回収量も少ないため解析が遅れている。・ホルマリン固定パラフィン包埋組織中のサイトカイン・ケモカインmRNAの定量解析では、IL-6、TNF-α、IL-8、RANTES、IP-10に追加してIL-1β、IFN-γ、MCP-1、IL-10mRNAの測定系を作成したが、定量解析が終わっていない。
1.インフルエンザ脳症の病理学的解析:血液脳関門(グリア血管複合体)部位のMMP-2、MMP-9ならびにインテグリンβ1などの構造支持型インテグリンの免疫組織化学の解析を行い、脳症例に特異的な染色パターンについて検討する。免疫組織化学で明らかな相違がみられない場合は、血管周囲をマイクロダイセクションで回収し、mRNAを定量解析する方法を検討する。脳組織においてIL-6mRNAコピー数が高い切片で、IL-6mRNAを高感度のin situ hybridization法で検出することを試み、陽性細胞を同定する。脳症例の血液脳関門について電子顕微鏡での形態観察を試みる。2. インフルエンザ重症肺傷害の病理解析:27年度は、H5N1亜型鳥インフルエンザウイルスヒト感染症のホルマリン固定パラフィン包埋肺組織から回収されるインフルエンザウイルスゲノムの検索を優先して行う。昨年度に確立したIL-1β、IFN-γ、MCP-1、IL-10mRNAの測定系を用いてARDS滲出期で死亡した症例の剖検肺組織中のサイトカイン・ケモカインmRNAの定量解析を行い、結果をまとめる。肺組織上でこれらのサイトカイン・ケモカイン発現細胞とウイルス抗原陽性細胞との関係を蛍光二重免疫組織化学等により明らかにする。またARDSの肺組織において、肺胞上皮細胞、血管内皮細胞からなる肺胞血液関門の電子顕微鏡を用いた形態観察に加えて、アドヘレンスジャンクション、タイトジャンクション等を免疫組織化学で検出し、正常肺組織との相違について解析する。
年度末納品等にかかる支払いが平成27年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成26年度分についてはほぼ使用済みである。
上記のとおり
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Cell Host & Microbe
巻: 15 ページ: 692-705
10.1016/j.chom.2014.05.006.