研究実績の概要 |
胸水セルブロック用いたQ-FISH法により、胸水中の中皮細胞、悪性中皮腫細胞、癌性胸膜炎の肺腺癌細胞のテロメア長の測定を行い、中皮腫発生のメカニズムの解明、悪性中皮腫の早期診断、石綿曝露症例の悪性中皮腫発生の危険率や予後の推定への応用の可能性を検討することが、本研究の主な目的である。昨年度までの研究により、胸水中の悪性中皮腫細胞および肺腺癌細胞のテロメア長は非腫瘍性中皮腫細胞より有意に短いこと、石綿曝露症例の非腫瘍性中皮細胞のテロメア長が、石綿非曝露症例に比べ軽度ながら有意に短縮していること、中皮細胞の悪性の指標とされているEMA, Glut1, CD146, IMP3の発現が非腫瘍性の中皮細胞にも稀に認められ、テロメアの短縮している中皮細胞に発現する傾向があることがわかった。これらの結果より、石綿曝露による胸膜の慢性炎症により、中皮細胞のテロメアの短縮がおこり、それによる遺伝子の不安定性が悪性中皮腫の発生に関与している可能性が示唆された。また胸水中の中皮細胞のテロメア長の測定が、異型中皮細胞の良悪の判定や石綿曝露症例の悪性中皮腫発生の危険率の推定に役立つ可能性が考えられた。 本年度は、これまでの結果をまとめて日本病理学会で発表した。さらにこれまでの研究で症例数がやや少なかった悪性中皮腫と肺腺癌を、それぞれ3症例および4症例追加して測定し、英語論文にまとめ、英文校正を終えて、現在英文雑誌に投稿中である。 また本研究の目的の一つとして、高分化乳頭状中皮腫についてもテロメア長の測定を行い、悪性化の可能性の有無等についても検討することがあった。昨年度までに本疾患を17症例収集して病理所見等をまとめ、論文として発表した。本年度はQ-FISHによるテロメア長の測定を行ったが、測定できた症例が4例に止まり、研究成果としてまとめるまでのデータは得られず、将来の研究課題として残された。
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