研究実績の概要 |
膵intradutal tubulopapillary neoplasm (ITPN)は,2009年に我々が報告した新規膵管内腫瘍概念である.様々な臨床・病理学的特徴が既知の膵腫瘍とは異なることをこれまでに明らかにしてきたが,今回,計4例につき,新鮮凍結標本を用いて詳細な遺伝子解析を行った.顕微鏡ガイド下に腫瘍部・非腫瘍部のサンプリングを行いDNAを抽出した.2例(case 1, case 2)に関してはSoLiD systemによる全ゲノムエクソン解析を行った.残りの2例(case 3, case 4)に関しては核酸の分解が強く全ゲノムエクソン解析が困難であったため,Ion Ampliseq systemを用いた準網羅的な解析を施行した. 解析結果から,種々のsignaling pathwayに関わる様々なsomatic mutationが同定された.すなわち,Wnt-beta catenin pathway (CTNNB1 in case 1 and APC in case 2),PI3K pathway (PIK3CA in case 1 and PIK3CB in case 4), GAS6-AXL pathway (AXL in case 4),TP53 pathway (TP53 in case 2), Rho pathway (ARHGAP35 in case 1 and KALRN in case 2), ephrin pathway (EPHB3 in case 1)に関わる遺伝子異常である. これらの多くは,既知の膵癌(pancreatic ductal adenocarcinoma)や膵管内腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm)と比較して,極めて新規性の高い遺伝子変異であった.ITPNの腫瘍概念としての独立性を支持するとともに,本腫瘍の診断,及び治療標的としての応用が期待される結果となった.今後,類似した解析を同時期に行っていた米国のチームとデータを併合して報告予定となっている.
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