研究課題/領域番号 |
26460460
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
若山 恵 東邦大学, 医学部, 講師 (40230924)
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研究分担者 |
渋谷 和俊 東邦大学, 医学部, 教授 (20196447)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 特発性肺動脈性肺高血圧症 / WNT/PCPパスウェイ / 免疫組織染色 / Stachybotrys chartarum |
研究実績の概要 |
特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)は難治性疾患であり、現在、根本的な治療法が存在せず、ほとんどすべての患者が血管拡張薬による保存的治療や心肺移植に頼っている。本研究の目的は、ヒトIPAHの病態形成の本幹をなす肺動脈壁の肥厚に直接的・非直接的に関与する遺伝子経路とその発現部位を蛋白レベルで証明し、IPAHの新たな治療法の可能性を追求することである。 平成26年度には、当機関における特発性・二次性を含むヒト肺動脈性肺高血圧症(PAH)剖検例と、年齢を一致させた肺動脈肥厚の無い対照症例の保存肺組織を用いて、肺動脈病変におけるWNT/PCPパスウェイに関わる遺伝子であるWNT-11、DVL-2、DAAM-1の発現の有無や詳細な発現部位について免疫組織学的に評価を行った。加えて、同様の解析をIPAHモデルマウスに対しても行い、これらの群の染色結果について比較検討を行った。 その結果、ヒト対照群と二次性PAH群の中膜の平滑筋細胞においてはWNT/PCPパスウェイの上流に位置するDVL-2の陽性率が下流に位置するDAAM-1陽性率に比して高かったのに対して、IPAH群ではDAAM-1の陽性率がDVL-2の陽性率に比して有意に高かった。また、モデルマウスの肺動脈では、肺動脈壁肥厚の有無に関わらず、いずれも陰性であった。 平成27年度には、上記の結果についてさらに解析を行った。IPAH群ではDAAM-1の過剰発現が疑われたが、DVL-2を介さずにDAAM-1を発現させる他の経路は現在のところ証明されておらず、むしろパスウェイのさらに下流に位置する遺伝子へのシグナル伝達の障害が、IPAHの病態である中膜平滑筋層の肥厚に直接的に関与している可能性が疑われた。一方、IPAHモデルマウスにおいては、WNT/PCPパスウェイのさらに下流の遺伝子の関与により肺動脈壁の肥厚が生じた可能性が推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
WNT/PCPパスウェイ関連遺伝子であるDVL-2やDAAM-1の免疫組織学的検索においては、当初の研究対象とした群については終了しており、現在、論文化を進めているところである。一方、マイコトキシンを使用したマウスの感染実験については、投与法の再検討を行ったため、進捗が遅れているのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
東邦大学医療センター大森病院のPAH剖検例及び対照症例をさらに追加し、本年度に引き続き、特発性・二次性を含むヒトPAH剖検例と、年齢を一致させた肺動脈肥厚の無い対照症例の保存肺組織を用いて、WNT/PCPパスウェイに直接的および間接的に関与する遺伝子の発現の有無や発現部位について免疫組織学的評価を行い、このパスウェイに関わるどの部分で意図的な介入を加えることが予防や早期治療につながる可能性があるか明らかにする。また、特発性PAHと同様に若年に発症し、血管の構築改変が原因と考えられる特発性門脈圧亢進症剖検例の肺動脈や門脈についても同様の検討を加え、これらの疾患における血管の再構築過程に関与する遺伝子の発現について、免疫組織学的比較を行う。特発性門脈圧亢進症については、別途、遺伝子的解析の一部が進行中(東邦大学医学部倫理委員会承認済、課題番号:27099)であるが、剖検例における免疫組織学的検討については倫理関係の手続きは現在準備中である。 さらに、S. chartarum等の環境由来真菌の代謝産物である、トリコテセン-マイコトキシンの一種のT2-toxinをマウスに持続摂取させることによって、同様の肺病変が形成されるか否かについて明らかにする。持続接種の方法については、当初、経口的接種を計画していたが、有効投与量の把握難しいため、腹腔内投与に変更する予定である。上記の手法により、IPAHの病変形成のメカニズムに寄与する環境因子の一端を明らかにする。 平成26年度の実績として得られたWNT/PCPパスウェイ関連遺伝子の免疫組織学的評価についてはデータを整理し、雑誌に公開するべく準備中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
自動免疫組織染色(Benchmark GX)の機器賃貸借について業者との交渉に時間を要したこと、またその費用を27年度に一括して支払う予定であったが月払いに変更したことから、その費用が28年度に持ち越されたため。これに伴い、抗体等の消耗品費の一部も28年度に計上される予定となった。また、T2-toxinのマウス投与実験について、実験計画の見直しを行ったため、その費用も28年度に計上される。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の機器使用料に1,814,400円(税抜き14,000/月x12月)、その他抗体2種に267,840円(税抜き62,000円x4個)、その他、機器稼働に伴う消耗品費、T2-toxinのマウス投与実験におけるマウス購入費用等に使用する予定である。
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