研究課題/領域番号 |
26460462
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
河原 明彦 久留米大学, 大学病院, その他 (00469347)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 病理学 / 分子病理学的検査 / 遊離DNA |
研究実績の概要 |
一般にがんの遺伝子変異解析は、がん細胞から直接DNAを抽出する方法が基本である。非小細胞肺がんの治療に重要なEGFR遺伝子変異解析がこのDNAを用いて行われている。しかし、提供された検体にがん細胞が含まれていないこともあるため、液状検体中に遊離しているがん細胞由来のDNAを用いた遺伝子変異解析の検討を進めた。まず、細胞が壊れることにより生じる遊離DNAの質的・量的実験を培養細胞(PC9, H1975)を用いて検討した。その結果,培養液中の細胞を室温で放置すると,時間依存的にがん細胞が死滅することを確認した。同様に、上澄み中の遊離DNAの量もまた時間依存的に増えていくことを確認できた。遊離DNAの質的実験では、長期間細胞を保存していた検体の遊離DNAは明らかに断片化が生じており、このような検体はPCR解析ができない(偽陰性化になる)ことを確認した。次に、気管支擦過液状化細胞診(Liquid-based cytology)検体と気管支洗浄液からがん細胞から遊離しているDNAを抽出し、この遊離DNAを用いてEGFR遺伝子変異検出が可能か否かを検討した。臨床検体において細胞診の遊離DNAはSurePath(CytoRich Red)保存液によって断片化を遅らせることができ、PCR解析によって高い確率でEGFR遺伝子変異を検出できた。しかし、この陽性結果は検体中にがん細胞が存在したものに限ってみられた。すなわち気管支細胞検体において、がん細胞が存在しない検体からEGFR遺伝子変異陽性を検出することはなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遊離DNAの質的・量的な実験を培養細胞(PC9, H1975)を用いて検討できた。また、気管支擦過および洗浄液の臨床検体からの遊離DNAを用いた迅速な遺伝子変異解析も確立した。 この結果は既に英文論文雑誌Cancer Cytopathology(Cancer Cytopathol. 2015; 123: 620-8)に受理されており、イタリアミラノで開催された欧州細胞学会では、ポスターアワードを受賞でき、高い評価を得ることができた。しかし、当初予想していた「がん細胞が含まれていない検体からもEGFR遺伝子変異陽性を検出する」ことが未だ確認できていないので、遊離DNAが全身を巡回している可能性が高い体腔液細胞診検体を用いて、更に検討を進めて行く予定である。
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今後の研究の推進方策 |
体腔液細胞診検体は中には、全身を巡回している遊離DNAが多数存在すると推測される。今後は、この細胞診検体を用いてEGFR遺伝子変異検出とがん診断に着目しながら研究を進めたい。遊離DNAが単独で体内を循環しているのか、あるいは循環がん細胞と共に遊離DNAが存在するのかが明らかななると思われる。また、耐性遺伝子であるT790Mの検出に行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
遊離DNAを用いたEGFR遺伝子変異検出において、PCRの性能やキットの検出限界などが深く関わっていることが示唆され始めている。そこで、現在使用しているキットよりも高感度検出キットを購入する予定であった。しかし、未販売品の研究用試薬なので販売業者と交渉を進めた。その結果、平成28年度に購買可能になったため、平成27年度の支出を控えた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度4月に高感度検出キットを購入し、更なる研究を進めていく。感度の違いによってEGFRT790Mの検出率の違いを明らかにし、遊離DNAを用いた新しい遺伝子変異検出法を確立していきたい。
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