研究課題
上皮増殖因子受容体(EGFR)に遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者に対する治療薬としてゲフィチニブやエルロチニブが知られており,肺がん治療においてこの遺伝子の検索は必要不可欠である.我々は以前,EGFR遺伝子変異は気管支擦過液状化細胞診の上澄み液から抽出された遊離DNAを用いて検出することができ,これは形態と遺伝子診断を同時に行うための早くて感度の高い方法であることを報告した.今回の目的は胸水細胞診の上澄み液に存在する遊離DNAを用いたEGFR遺伝子変異と細胞診断の関係について調査した.我々は2013年1月~2016年8月までの間で,372例の体腔液細胞診断を行った.この中でEGFR遺伝子変異を伴い且つ体腔液上澄み検体が充分に保存されている肺癌検体45例を調査した.対照としてEGFR遺伝子変異を伴わない15例の肺癌検体を用いた.EGFR遺伝子変異の検出は,体腔液中の沈査と上澄み液の両者からPCR法を用いて解析した.EGFR遺伝子変異を伴う45例において,原発巣,体腔液沈査および上澄み遊離DNAの結果が一致した症例は16例(35.6%)であった.対象としたEGFR遺伝子変異を伴わない15例において,変異型の検出はなく,特異性100%であった.体腔液検体におけるEGFR遺伝子変異陽性率は,沈査23例(51.1%)と上澄み遊離DNA20例(44.4%)の単独で結果を評価するよりも,両方の結果を併せて評価したほうが,陽性率が有意に増加することが明らかとなった(P<0.05).細胞診断との関連において,EGFR遺伝子変異の検出率は陽性診断において最も高い結果となったが,陰性診断においてもEGFR遺伝子変異しばしば検出された.EGFR遺伝子変異の検出において,上澄み遊離DNAは沈査と同様にEGFR遺伝子変異を検出するのに役立つことができ,重要な検体の1つであることが証明された.
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