研究課題/領域番号 |
26460464
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮武 由甲子 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10421984)
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研究分担者 |
笠原 正典 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30241318)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | HTLV-1 / ATL / がん幹細胞 / 共培養 / in vitroモデル |
研究実績の概要 |
成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)は、皮膚や消化管、肺、中枢神経など様々な組織への腫瘍細胞の激しい浸潤を特徴とする。組織浸潤したATL細胞がさらなる治療抵抗性を獲得することは経験として知られているが、その生物学的機序については不明な点が多い。我々は、正常上皮系フィーダー細胞との直接共培養によってATL細胞に誘導される足場依存性の細胞凝集塊(Anchorage-dependent multicellular aggregates; Ad-MCAs)の形成が、がん幹細胞マーカーのCD44を強発現し、多剤耐性因子であるMDR1の発現亢進を示すフェノタイプのATL細胞の拡大につながることを見出した。Ad-MCA形成にはATL細胞のNF-κBシグナル経路の活性化が関与し、NF-κB阻害剤によってAd-MCAの形成は劇的に阻害され、CD44 high ATL細胞の拡大も阻止された。しかし、NF-κBシグナル経路非依存性のAd-MCA形成を伴わないATL細胞のフィーダー細胞への接着は残存した。これらの細胞は転移タンパクとして知られるビメンチンの発現亢進させおり、ATL細胞のMCAの足場、つまり、フィーダー層へのアンカー(錨)として作用していることが示唆された。Withaferin A (WFA)処理によるVimentinフィラメントの攪乱は、ATL患者由来新鮮ATL細胞のフィーダー層への接着およびAd-MCAの形成を有意に抑制した。以上の結果より、このような正常上皮系フィーダー細胞を使用したin vitroモデルは、ATL細胞が細胞凝集塊として組織浸潤する可能性を示唆し、その際に、より悪性度の高いフェノタイプに変換し得ることを意味していると考える。つまり、生体内では組織浸潤したATL細胞は容易にいわゆる「がん幹細胞」様の特性を獲得し得ることが示唆され、このような周囲微小環境によるATL細胞のフェノタイプの変換は、将来、臨床の場において循環型ATL細胞と浸潤型ATL細胞に対して各々異なる治療戦略の必要性を示唆しているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、上皮系フィーダー細胞との直接共培養によってATL細胞に誘導される足場依存性のmulticellular aggregates (MCAs)の形成が、がん幹細胞マーカーのCD44を強発現し、HDAC阻害剤誘導性アポトーシスに対して強い抵抗性を示すフェノタイプのATL細胞の拡大につながることを見出し、論文報告した。生体内では組織浸潤したがん細胞は容易にいわゆる「がん幹細胞」様の特性を獲得し得ることが推測される。このような周囲微小環境によるATL細胞のフェノタイプの変換は、ATLのみならず、他の浸潤性造血器腫瘍に対する治療抵抗性の克服にも応用可能である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、本年度にATLにおいて明らかとなった新規現象が、膵がんにおいても起こり得るかを詳細に検討しており、論文による成果発表を目指している。さらに、HEK293T-共培養システムによって誘導されたがん幹細胞様特性を獲得したがん細胞における遺伝子および蛋白質の動態の変化を網羅的に解析する必要がある。これらの解析によって得られた変化をきたした遺伝子群がこの細胞間相互作用および新規に同定される新薬候補化合物の作用機序の解明にも役立つと期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画よりも消耗品の経費がかからなかったため、562,551円未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品費として562,551円を次年度使用する計画である。
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