癌組織中にはごく少数の癌幹細胞が存在し、自己複製能や多分化能、治療抵抗性を有しているため、癌の転移・再発の原因となると考えられている。臨床的に特に重要な癌幹細胞の特性は、細胞ストレス耐性と細胞周期静止状態である。これらの特性があるために、癌幹細胞は分裂期を標的とする現行の抗癌剤に抵抗性となる。癌幹細胞の発生・維持には周囲微小環境(ニッチ)の存在が必要不可欠であることが知られているが、その詳細なメカニズムに関しては、未だ不明な点が多い。本研究では、成人T細胞白血病(ATL)細胞は、単層培養した正常ヒト上皮様フィーダー細胞HEK293T細胞上に直接共培養することによって一晩で足場依存性多細胞凝集塊(Anchorage-dependent multicellular aggregate; Ad-MCA)を形成し、その一部が癌幹細胞マーカーCD44の発現亢進、細胞周期静止状態への移行、薬剤抵抗性の亢進といった癌幹細胞様特性を獲得することを報告してきた。Ad-MCA形成は、生体内ではATL細胞の転移、着床、浸潤といった一連の過程で起こっている可能性があり、その結果として、癌幹細胞様特性を獲得し、容易に難治性フェノタイプへと変換していると考えた。最終年度は、難治性固形癌の代表である膵癌に焦点をあて、上皮様フィーダー細胞との直接共培養によるAd-MCA形成と癌幹細胞様特性獲得の誘導に関して解析を行うとともに、本現象に関与する分子メカニズムを明らかにし、その臨床病理学的意義を検討した。さらに、マイクロアレイ法およびN結合型糖鎖推定構造解析による網羅的解析を行い、癌幹細胞様特性の獲得に関与する分子群の探索を行った。
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