ゲノム編集法を用いた相同組換え法により、癌幹細胞に高発現しているSOX2のC末端側に、Venus及びmCherry等の蛍光強度の強い遺伝子を組み込んだ。しかし顕微鏡で観察される蛍光シグナルは弱く、細胞内における局在を明確に識別することが困難であった。そこで、ゲノム編集法を異なるアプローチに用いることにした。即ち、SOX2制御因子として以前同定したDNA結合タンパク質の遺伝子欠損体を通常のゲノム編集法で作成した。 ゲノム編集法により遺伝子欠損体を得る為に、癌細胞株において高発現し、腫瘍悪性化への関与が指摘されているAPOBEC ファミリー遺伝子、及びETSファミリー遺伝子について、2つの手法を比較、検討した。1つ目は、Cas9及びguide RNA発現ベクターの過剰発現であり、高頻度(30%)に欠損体を得ることができたが、細胞の形態及び増殖速度について株間のばらつきが大きく、off-targetが予想された。そこで、2つ目にCas9タンパク質及びguide RNA複合体(RNPs) をin vitroで形成させ、細胞内へ導入した。その結果、遺伝子欠損株の樹立頻度は、10%程度まで低下したが、細胞増殖速度及び関連遺伝子の発現量にバラツキが少ないクローンを得ることができた。そこで、後者の方法により遺伝子欠損株をMCF7で作成したところ、得られたクローンは分化型ではなく盛り上がった形態となり、また細胞増殖も低下していた。現在、SOX2の発現量を含む遺伝子プロファイル及び、Sphere forming assay等を行い癌幹細胞としての性質を解析していてる。 またこれら実験とは別に、タイの研究チームと国際共同研究を行い、SOX2プロモーターが神経細胞におけるSOX2遺伝子発現の制御に重要なことを明らかにした。本研究成果は、Neurosience誌に掲載された。
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