研究課題
腫瘍幹細胞の多様性を制御する因子を同定することを目的に、リンパ腫細胞株を用いて検討した。用いた細胞株であるMWCL1は、B細胞と形質細胞の両者の性格をあわせもつ特徴がある。これまで腫瘍幹細胞的な性格をもつ細胞群として、B細胞でも形質細胞でもない細胞が存在することを報告してきたが、今回、この細胞群が増える条件として低酸素条件を見出した。さらに、着目細胞群を増やす因子として、ケモカインであるCXCL12を同定した。低酸素においてCXCL12は高発現し、着目細胞群で主に発現しているCXCL12のレセプターであるCXCR7からのシグナルを介して腫瘍幹細胞的な性格をもつ細胞群を増やすことを発見して報告した。我々の報告と相前後して、B細胞と形質細胞の両者の性格をもつlymphoplasmacytic lymphomaで、CXCR7とホモロジーの高いCXCR4の恒常的活性化変異が高頻度にみられること、この変異をもつリンパ腫は予後不良であることが報告された。腫瘍幹細胞を多く含む腫瘍は予後不良であることが知られており、我々の報告と矛盾のない結果と考える。本研究により、CXCR4, CXCR7を介したシグナルをブロックするという新たなリンパ腫治療の可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
初年度は子宮内膜癌を用いて腫瘍幹細胞的な性格をもつ細胞を制御する因子を見出し、本年度はリンパ腫を用いて同様の因子を同定した。様々な腫瘍における腫瘍幹細胞と非腫瘍幹細胞という多様性を制御する因子を同定しており、本研究は順調に進展している。
腫瘍幹細胞から非腫瘍幹細胞が生じることは自明であるが、最近、非腫瘍幹細胞から腫瘍幹細胞ができることも見出している。多様性を制御する因子をさらに追求するため、非腫瘍幹細胞が腫瘍幹細胞化することを腫瘍幹細胞の可塑性というが、この可塑性を制御する因子を今後解明していきたいと考えている。また、腫瘍幹細胞マーカーとしてALDHを利用しているが、ALDHを高発現する細胞群に多く存在するたんぱく質も多数同定している。その機能もゲノム編集技術を利用しながら解析していくプロジェクトも同時に進める予定である。
次年度、ALDH陽性細胞群で高発現している遺伝子をノックアウトする計画を立てている。これにあたり、当初予算より多くが必要と考えられ、次年度使用額を当初よりやや多く設定した。
ALDH陽性細胞群で高発現している遺伝子として、カルシウム結合性たんぱく質をコードする遺伝子と、細胞内アミノ酸代謝に関与するたんぱく質をコードする遺伝子に着目し、これらの遺伝子のノックアウト細胞株を作成する。作成した細胞の腫瘍細胞としての動態変化を検討する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件)
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