研究課題
大腸発癌のリスクファクターとして炎症の存在が示されて久しい.本研究は,腸管炎症発癌におけるdriver遺伝子を決定し,炎症性発癌の新たな分子機構を示すことにある.昨年度はマウスより剥離した腸管上皮組織を再構成させる培養実験を再現した.今年度は,その細胞に対して癌抑制遺伝子等の発現ノックダウン実験を施行した.また,K-rasコドン12遺伝子をコンディショナルに活性化できるノックインマウスや,p53遺伝子のホモおよびヘテロノックアウトマウスを用いた実験を実施した.これらの遺伝子発現改変の細胞株やマウス由来の腸管から細胞を得た.これらの細胞はいずれもヌードマウス皮下に移入した異物誘発炎症の環境下に置いた.異物は,生体吸収性のために急性炎症のみを誘発するゼラチンスポンジと,急性炎症から慢性炎症へと移行するプラスチックプレートを用いた.その結果,癌抑制遺伝子の抑制や変異K-ras遺伝子活性化した腸管上皮細胞をスポンジあるいはプレートとともに移植しても,平均2 mm径に達するdormant腫瘍を形成するのみであり,いずれも致死増殖する腫瘍は観察されなかった.しかし,p53遺伝子ホモ欠損マウスから得た腸管のうち大腸上皮細胞をプレートとともに移入した場合にのみ,移植後90日を経過後より致死増殖した.腫瘍は組織学的に線維肉腫であり,p53遺伝子ホモ欠損であった.腫瘍の出現は,p53遺伝子ホモ欠損の小腸上皮細胞を用いた場合や,これをスポンジとともに移入しても観察されなかった.また,p53遺伝子のヘテロ欠損マウスから得た小腸あるいは大腸上皮細胞をいずれの異物と移入しても致死増殖する腫瘍は出現しなかった.以上より,プレート移入により誘発される炎症は,p53遺伝子ホモ欠損の大腸細胞を癌化させることを見出した.この炎症発癌にはp53遺伝子変異が極めて重要な役割を担うことを見出した.
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の研究実施計画に則った計画実験を遂行し,当該研究の最大の関心であった炎症発癌に関わるドライバー遺伝子の候補に辿り着いた.しかしながら,当初の予想とは異なり,出現した腫瘍が線維肉腫であったことから,偶発的に紛れて採取した線維芽細胞の癌化,もしくは上皮間葉分化転換(Epithelial-Mesenchymal Transition,EMT)を起こした可能性が考えられる.現在これらの可能性を検討している.来年度の開始とともに本年度得ることのできた癌細胞株を用いて当初計画を遂行する状況にある.
平成27年度の研究実施計画が概ね計画通り進捗したことより,平成28年度には当初の計画実施計画に則り,driver遺伝子の検証とこれを基にしたシグナル系の解析に移行する.
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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