研究課題/領域番号 |
26460479
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
伊東 史子 東京薬科大学, 生命科学部, 准教授 (70502582)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | TGF-β / がん微小環境 / 血管新生 / リンパ管新生 / 低酸素 / 転移抑制 |
研究実績の概要 |
TGF-βは、正常細胞の増殖を抑制するサイトカインであり、細胞のがん化に伴いがんの悪性化因子として機能することが知られている。特にがんの後期では、がん細胞自身がTGF-βを産生し、細胞の増殖・転移の促進、免疫細胞の抑制、および血管新生を誘導することが知られている。本研究ではTGF-βシグナル系分子の遺伝子改変マウスを利用して、腫瘍血管・リンパ管新生におけるTGF-βシグナルの役割を解明し、がん転移抑制をめざした治療戦略としてのTGF-βシグナルの有用性について検討した。 ①遺伝子改変マウスの胎仔より血管内皮細胞を樹立し、アレイ解析を行った。これまでに明らかとなった血管内皮細胞またはリンパ管内皮細胞に特徴的な遺伝子群との比較を行ったところ、内皮細胞の機能維持におけるTGF-βシグナルの重要性が示唆されている。 ②TGF-βシグナル系分子の遺伝子改変マウスの血管構造について、様々な臓器にTGF-βシグナル欠損の影響について検討したところ、特に脾臓において異常が顕著であることを見出した。そのほか、肺の血管構造に異常が見られ、長期的な検討において肺胞構造に異常をきたすことを見出している。 ③がん微小環境におけるTGF-βシグナルの役割解析において、がん細胞が低酸素に陥るとTGF-βシグナルが亢進することを見出した。短期間の低酸素曝露ではTGF-βシグナルが抑制されるのに対し、長期の低酸素曝露では逆にTGF-βシグナルが亢進しており、がん細胞における悪性化において低酸素環境がもたらす環境変化について報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①腫瘍血管内皮細胞の分取にこだわらず柔軟に対応した結果、TGF-βシグナル欠損による血管内皮細胞への影響について明らかにすることができた。 ②Pdgfb-icerERマウスを用いて、TGF-βシグナルの欠損について解析を行っているが、TGF-βファミリーシグナルすべてを遮断するSmad4のコンディショナルノックアウトマウスにより遺伝子欠損による異常を迅速に検出することが可能となった。 ③長期間低酸素曝露によりTGF-βシグナルが亢進することを論文報告した。
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今後の研究の推進方策 |
①血管内皮細胞 TGF-βシグナルが欠損した血管内皮細胞を用いたマイクロアレイの結果から、興味のある分子群について検証を進めていく。実際に、血管内皮細胞(HUVEC)やリンパ管内皮細胞(HDLEC)を用いて、TGF-βシグナルによって発現がどのように影響を受けるのかについて精査するとともに、その意義について詳細に解明する。特に発現が変動している分子については、腫瘍組織の血管においてその発現を免疫染色法を用いて明らかにするとともに、その分子を標的とした治療法開発の可能性について模索する。 ②TGF-βシグナル欠損による血管・リンパ管構造への影響 GFPを恒常的に発現する細胞を用いて、腫瘍リンパ行性転移、血行性転移について検討する。リンパ行性転移:マウス足底部にGFP-LLCを移植するとともにタモキシフェンを投与して目的の遺伝子を欠損させ、移植後1週間においてがん細胞のリンパ行性転移について検討を行う。蛍光を指標にして、膝窩リンパ節、鼠径リンパ節への転移について検討する。TGF-βシグナルが欠損した血管では腫瘍転移がどのように変化するのかを明らかにするとともに原因となる分子機構を検証する。腫瘍血行性転移:マウスの背部皮下にGFP-LLCを移植するとともにするとともにタモキシフェンを投与して目的の遺伝子を欠損させる。移植3週間後に血液を採取して、全身循環血液中に存在するがん細胞をGFPを指標に検出する。野生型のマウスと比較して、TGF-βシグナルが欠損した血管では腫瘍転移がどのように変化するのかを明らかにするとともに原因となる分子機構を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費がかからなかったため。実験が効率良く進行したため。
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次年度使用額の使用計画 |
人件費分を学生実験に利用する。初心者が多いため、実験ミスを防ぐためにキットの使用を推奨する。今年度、論文が出せなかったため、最終年度で論文発表するために費用を使う。
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