本研究は、ヒト自閉症高感受性遺伝子NLGN4Xについて、自閉症での遺伝子発現の変化、それを引き起こす非遺伝的背景は何なのか明らかにすることを目的としている。 まず、ストレスを介したMeCP2のリン酸化、miR-23a、lncRNAによる発現制御機構について解析を行った。細胞にカイニン酸刺激すると、MeCP2のリン酸化が亢進しヒストンH4のアセチル化に伴って転写翻訳が促進された。NLGN4Xを翻訳抑制するmiR-23aは、熱ストレス刺激したミクログリアが分泌するexosome中に増加し、細胞に作用させるとNLGN4Xの発現を抑制した。また、miR-23aの標的因子Topoisomerase 1(TOP1)が転写レベルでNLGN4Xの発現を調節した。次にNLGN4Xの逆鎖lncRNAを同定した。この発現はTOP1阻害薬により増加した。ノックダウンするとNLGN4Xの発現が増加し、逆に強制発現すると抑制された。 浸透圧ストレスによる発現調節ならびにiPS細胞の神経細胞への分化誘導におけるメチル化を介した発現調節について解析した。高浸透圧ストレスは負荷14時間よりNLGN4X mRNA量を増加し、24時間以降タンパク量を増加した。この増加はAVPに比べかなり遅くmTORシグナルにより調節されていた。次にNLGN4XをノックダウンするとAVPが分泌上昇し、NLGN4Xの免疫沈降によりリソゾームや膜小胞タンパク質の結合が観察されたことから、NLGN4XはAVP分泌顆粒のターンオーバーに働いている可能性が考えられた。 iPS細胞の分化誘導過程でプロモーター領域のCpGメチル化をMSP-qPCRにより解析したところ、エキソン1Aでは発現上昇に伴ったメチル化の有意な減少、エキソン1Cでは完全なメチル化の消失が観察され、プロモーター領域のメチル化の消長と発現変化の関係が示された。
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