研究課題/領域番号 |
26460489
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
太田 康晴 山口大学, 医学部, 准教授 (60448280)
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研究分担者 |
田口 昭彦 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20634744) [辞退]
秋山 優 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (90717547)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 概日リズム / インスリン分泌 / 時計遺伝子 |
研究実績の概要 |
膵β細胞機能もコア時計遺伝子により制御されていることが報告されたが、その制御機構には不明な点が多い。我々は、マウスインスリン1プロモーター下で転写抑制系の時計遺伝子E4BP4を発現するトランスジェニックマウス(以下TG)を作製し、インスリン分泌不全による耐糖能障害の表現系を明らかにするとともに、そのインスリン分泌障害のメカニズムに関しての解析を行った。10コピーのトランスジーンをもつCライン、3コピーのトランスジーンをもつDラインはともに有意な高血糖をきたすが、高脂肪食負荷によってCラインではより顕著な高血糖が認められたため、耐糖能障害の程度に対するE4BP4のgene-dosage effectがより明確となった。膵灌流実験では、TGにおいてインスリン分泌第1相の遅延と分泌量の低下が認められた。Cラインでは、インスリン含量及びβ細胞量の低下、β細胞数の減少とラ氏島の構造異常が認められた。単離ラ氏島のリアルタイムRT-PCRによる、時計関連遺伝子、インスリン分泌関連遺伝子の発現とその概日リズムの解析を行った。インスリン遺伝子を含むインスリン分泌に関連する遺伝子の発現は、マウスが摂食を開始するZeitgebertime12に向かって徐々に発現が増加する傾向が認めらるが、 Cラインから単離したラ氏島では、それらの遺伝子発現の増加が認められなかった。インスリン遺伝子については、ChIPシークエンス並びにChIP-PCR解析の結果から、DBP、E4BP4が直接プロモーター/エンハンサー部位に結合し、転写が調節されていることが、我々の結果から示唆されている。TGマウスのインスリン分泌不全のメカニズムをさらに詳細に解析していくことにより、体内時計とインスリン分泌との関連や新たなインスリン分泌機構が解明できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスインスリンⅠプロモーター下で転写抑制系の時計遺伝子E4BP4を発現するトランスジェニックマウス(MIP-E4BP4マウス)を作製し、現在、なお解析中ではあるが、このマウスがインスリン分泌不全による耐糖能障害をきたすことは確実であり、MIP-E4BP4マウスの糖代謝における表現型はほぼ明らかにできていると考えている。ここまでの結果に関しては、現在、論文へ投稿中である。MIP-E4BP4マウスは興味深い表現型を示しており、時計遺伝子異常が膵β細胞機能不全ひいては糖尿病を引き起こす経路において、DBPシグナルが不可欠であるという事実は明らかに出来ている。MIP-E4BP4マウスのインスリン分泌不全の主たる機序がまだ完全には解明できていない状況ではあるが、インスリン遺伝子を含む、インスリン分泌に必要な遺伝子のDBP、E4BP4による直接的な転写調節、DBPシグナルによる細胞内ATP/ADP比の調節という新たなメカニズムも徐々に明らかにしつつあり、インスリン分泌機構と糖尿病発症の関連に関する研究を新たな局面へと展開できる可能性が出てきている。以上のことより、少なくとも、現時点では計画通りに研究が遂行出来ていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
MIP-E4BP4マウスにおけるインスリン分泌不全のメカニズムをさらに明らかにしたいと考えている。単離ラ氏島におけるATP/ADP比の計測をおこなったところ、MIP-E4BP4マウスでは、グルコース刺激前(基礎値)のATP/ADP比が高く、高グルコース刺激によるATP/ADP比の上昇が小さいことを明らかにしつつある。基礎値のATP/ADP比は、野生型マウスにおいては、概日リズムを呈しており、このことによって、野生型で認められるインスリン分泌反応の朝晩の違いが説明できる可能性がある。MIP-E4BP4マウスは、過剰発現モデルの系であるため、やはりDBPを欠損させたモデルマウスでも、同様なインスリン分泌における表現型が認められるか否かを確認する必要がある。現在、全身型のDBPノックアウトマウスを作製中であり、グルコース負荷試験、膵灌流実験、単離ラ氏島を用いたstatic incubationアッセイを行いながら、単離ラ島を用いたRNAシークエンス、ChIPシークエンスなどの網羅的解析も進めていく予定である。MIP-E4BP4マウスの単離ラ氏島を用いた網羅的解析の結果と組み合わせて、パスウェイ解析等を行うことにより、DBPシグナルのインスリン分泌における役割をさらに明確にできると考えている。また、ヒトにおいては、DBP mRNAが朝に高く、夜行性であるマウスとは位相が逆になっていることが報告されている。我々の実験結果より、ヒトでは、DBPシグナルが強いと考えられる時間帯(午前中)では、インスリン分泌反応が大きいが、DBPシグナルが弱いと考えられる時間帯(夜間)にはインスリン分泌反応が小さくなる可能性が高い。非糖尿病の健常人の協力を得て、この可能性についても検証していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、マウスの表現型の解析の続きが主体であり、全く新しい手技を必要とする実験が少なかったため、今までの実験機器、試薬などを継続して使用出来ることが多く、大きなコストが発生しなかった。また、海外発表も1回おこなっているが、旅費等は学会の主催者負担であったため、コストが発生したのは、国内学会の旅費のみであった。
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次年度使用額の使用計画 |
RNAシークエンス、ChIPシークエンスといった、比較的大きな費用を必要とする網羅的解析を幾つか計画しているため、前年度をはるかに上回る研究費用を必要としている。また、新たにDBPノックアウトマウスを現在作製中であり、マウスの作製費と維持費の一部に研究費を充てることを計画している。
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