研究実績の概要 |
1. C57BL/6J遺伝子背景のCD157KO,CD38KO,CD38/CD157DKOの腸管免疫系の解析:CD157とCD38の臓器別遺伝子発現を定量し、肺、腎、肝、胃、小腸、大腸、胸腺、脾臓、表在リンパ節(sLN)、腸間膜リンパ節(MLN)、パイエル板において、両者の遺伝子発現を認めた。CD157の発現が優位の臓器は腎で、CD38優位の臓器は肝臓、大腸、脾臓であった。CD157タンパク質の局在を免疫染色法により確認した。HE染色法では形態異常を認めなかった。CD157KO,CD38KO,CD38/CD157DKOの3,6ヶ月齢の体重、小腸・大腸の長さに差はない。しかし、CD38KOとCD38/CD157DKOにおいてMLNの細胞数が2倍以上に増加していた。全身性免疫系の評価として血清IgM,IgA,IgGを測定した。CD157KO雄では野生型と有意差はなかった。しかし、雌ではIgMが3分の1に低下し、IgAが2倍に増加した。CD38/CD157DKO雄でIgAが増加した。胸腺非依存性抗原TNP-Ficollに対する抗体産生では、CD38/CD157DKO雌でTNP特異的IgM, IgGが1.6~1.9倍に増加した。 2. 脾臓細胞の試験管内増殖反応:LPS, コンカナバリンA, 抗IgM, 抗CD3ε, 抗CD38抗体の刺激によるCD157KOの増殖反応は野生型と差がなかった。 3.腸内常在細菌叢がCD157の機能に及ぼす影響の解析:無菌化CD157KOの作出は委託により計17匹の無菌化CD157KOを得て7-8週齢で解析した。対照の無菌化C57BL/6Jと同様、虫垂の腫大が認められた。脾臓、MLN、小腸腸管上皮リンパ球(IEL)、小腸粘膜固有層リンパ球(LPL)の細胞数では無菌化C57BL/6Jと比較して、IEL,LPLの減少と脾臓とMLNの細胞数増加を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画と進捗状況は以下の通り。 1. CD157KO,CD38KO,CD38/CD157DKOの腸管免疫系の解析:この1年間で計160匹以上の種々の月齢(主に3~6ヶ月齢、1遺伝子型あたりn=3以上)のマウス全身解剖を進め、HE染色用組織検体と遺伝子解析用試料を蓄積した。比較的長期飼育時間を要する検体について十分数の解析がなされ、全身免疫系リンパ組織の細胞数と免疫担当細胞集団のフローサイトメーター解析等の基礎データは収集済みである。しかし、腸管免疫系に関する解析は十分に行えていない。 2. CD157やCD38の欠損が腸管組織構築に及ぼす影響の形態学的解析:試験的HE染色の結果では、明らかな異常は検出されていない。免疫染色法については酵素化学的発色法によるBST-1、CD38および各種免疫系細胞系譜の検出方法を確立した。小腸の運動制御に関わるペースメーカー細胞interstitial cells of Cajalについては、予想される反応性は得られていない。 3. CD157の腸管幹細胞制御機能の試験管内解析:1.での遅れの影響で未着手である。 4. 無菌化CD157KOの作出~(平成27年度以降の研究計画1.)腸管内常在細菌叢がCD157KOの腸管機能制御機構に及ぼす影響の解析:本申請課題中、最も重要な実験であり、研究費の中で最も大きな割合を占めるこの解析は、平成27年度の計画を前倒して行った。予想外の貴重な結果を得ることができた。 以上により、本学で維持飼育されている遺伝子改変マウスについては、腸管および粘膜免疫系の解析に限り、遅れが認められるものの、CD157KOの無菌化という独創的実験計画により、極めて重要な結果を既に得た。本研究費無しには不可能であった委託作製により貴重な成果を出していることから、おおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、 平成26年度研究計画1~3の中で遅れていた粘膜免疫系解析に重点を移し、継続する。 1. CD157KO,CD38KO,CD38/CD157DKOの腸管免疫系の解析:小腸から調製した細胞(IEL、LPL)やパイエル板細胞の解析を重点的に進める。2. CD157やCD38の欠損が腸管組織構築に及ぼす影響の形態学的解析:パイエル板、孤立リンパ小節、クリプトパッチの組織構築の解析を進める。平成26年度の解析結果を基に、蛍光免疫染色法へ移行して行く。3. CD157の腸管幹細胞制御機能の試験管内解析:1.の方針により、並行して粘膜免疫系細胞の試験管内機能解析を進める。さらに、セルソーターを用いた細胞分画採取の実験を開始する。4. 無菌化CD157KOの作出:完了した。(無菌化CD38/CD157DKOの作出との記載は誤り。) 平成27年度以降 1. 腸管内常在細菌叢がCD157KOの腸管機能制御機構に及ぼす影響の解析:無菌化CD157KOで得られた異常表現型について、その機序を理解するために野生型対照C57BL/6JのSPF飼育マウスと無菌化マウスを購入し、消化管とMLN間での細胞動態制御機構についてケモカインや接着分子を中心に解析する。2. 放射線障害がCD157DKOの腸管機能制御機構に及ぼす影響の解析:この実験は、平成26年度に予備実験を既に3回行い、採取した腸管組織については標本作製中である。CD157の有無が放射線傷害抵抗性に影響する可能性を示唆する結果が得られており、平成27年度には中心的に進める。3. CD157の腸管炎症反応における機能解析:大腸においてはCD38の遺伝子が優位に発現されることから、CD157KOのDSS腸炎実験では明瞭な表現型の得られない可能性がある。平成27年度1.で無菌化野生型マウスの解析を進めるために、本実験計画は優先順位を下げる。
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