研究課題/領域番号 |
26460499
|
研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
石原 克彦 川崎医科大学, 医学部, 教授 (10263245)
|
研究分担者 |
矢作 綾野 川崎医科大学, 医学部, 助教 (10584873)
五十嵐 英哉 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (40291538) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 腸内細菌叢 / 1型胸腺非依存性抗原 / 無菌化(germ free) |
研究実績の概要 |
1. C57BL/6J遺伝子背景のCD157KO,CD38KO,CD38/CD157DKOの腸管免疫系の解析: DNP-OVA とアラムを用いた胸腺依存性抗原応答解析では、CD38又はCD157の単独欠損では影響が認められないのに対して、CD38/CD157 DKOの初回免疫21日後の抗DNP-IgA 高値と追加免疫後7日の抗DNP-IgM 低値が認められた。これらの免疫応答にADPリボシルシクラーゼが関与する可能性を示唆する。 CD157KOの1型胸腺非依存性抗原(TI-1Ag) TNP-LPSに対する抗体産生応答では、血清抗TNP-IgM, 抗TNP-IgGのいずれもが野生型の約2倍の高値を示した。 C57BL/6J(B6J)の遺伝子背景で初めて明瞭となった予想外の表現型である。そこでB細胞(造血系)と白脾髄間質細胞(非造血系)いずれのCD157によるものかを検討するために、X線照射骨髄キメラマウスを作成し、TNP-LPS 応答を解析したところ、造血系がCD157KOであれば、非造血系細胞のCD157の有無とは無関係に抗TNP-LPS応答が亢進していた。即ち、B細胞のCD157はTI-1Agを負に制御していることが明らかとなった。 2.腸内常在細菌叢がCD157の機能に及ぼす影響の解析: 26年度の解析で無菌化CD157は無菌化B6Jと比較して腸間膜リンパ節(MLN)の細胞数が増加していること、そして無菌環境からSPF環境へ移動後1週間には、MLN数がさらに増加することを見出だした。27年度には、無菌化B6Jを購入し、対照群を補うべく追加実験を行った。その結果、B6Jにおいては無菌からSPFへの環境変化によってもMLN数の増加は認められ無かったことから、CD157は腸内細菌叢存在下の免疫系細胞の局在あるいは組織分布の制御に関与するという興味深い可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1. CD157KO,CD38KO,CD38/CD157DKOの腸管免疫系の解析:腸管免疫系と対比させるための全身性免疫系の解析を進めて来たが、TI-1Agに対する抗体産生応答がCD157KOで亢進しているとの予想外の表現型が発見された。この効果が造血系・非造血系のいずれのCD157の機能を反映するものか、という重要な問題を解決するために、X線照射骨髄移植キメラを作成し、その抗体産生応答を解析した。その結果、おそらく造血系細胞の中でもB細胞表面のCD157がTNP-LPSに対する応答を抑制性に制御している可能性を明らかにした。これらの一連の取り組みを優先して進めたために、腸管免疫系の解析を十分に進めることができなかった。TNP-LPSはTI-1Agの解析に有用なモデル試薬であるが、この異常応答の機序がCD157欠損細胞のLPSに対する反応性亢進を内包するならば、粘膜免疫系が対峙する腸管内常在細菌叢に対する応答においても影響をもたらしている可能性があり、今後、粘膜免疫系の解析を進める上で重要な知見を得たと言える。 2. CD157やCD38の欠損が腸管組織構築に及ぼす影響の形態学的解析:腸管組織の発生・再生、神経支配、運動に関する構築異常を評価するための抗原として、c-Kit, nestin, LGR5, BMI1, 平滑筋アクチン, BMPR2の抗体を用いた免疫染色の条件検討を開始した。 3. CD157の腸管幹細胞制御機能の試験管内解析:腸管organoid cultureのキットを購入し、条件検討を開始した。 4. 腸管内常在細菌叢がCD157DKOの腸管機能制御機構に及ぼす影響の解析:26年度で前倒しに作成した無菌化CD157KOの予備的解析によりCD157KOの表現型の中で、腸内細菌叢依存性が示唆されるものを免疫系と精神神経系で見出だした。
|
今後の研究の推進方策 |
重点とすべき計画変更の必要性 無菌化CD157KOの解析で、腸内細菌叢依存性を示唆する表現型や、CD38/CD157DKOのみで出現する胸腺依存性抗原応答異常、即ちADPリボシルシクラーゼ依存性と思われる表現型などの予想外の結果が出現した。これらの分子機構を理解するためには、腸内細菌叢が全身性にもたらす変化として代謝環境の網羅的把握が必要と実感した。そして、その情報を得る戦略として、CD38あるいはCD157 の単独欠損マウスを解析するより、ADPリボシルシクラーゼ活性を有する既知の分子をすべて欠損するCD38/CD157DKOの代謝状態を網羅的に解析する方が明確な結果を提供すると考え、27年度後半より、8週齢のCD38/CD157DKO、野生型それぞれ5匹ずつの血漿、肝組織、大腸内容物を収集し、28年度初めに血漿のメタボローム解析を委託した。また、CD38/CD157DKOと野生型の糞便を用いて腸内細菌叢の差異の有無を明らかにするために、T-RFLP解析を委託した。これらの解析結果を基に、今後、CD38あるいはCD157を単独に欠損するマウスの腸内細菌叢依存性表現型を解析の中心に据えて取り組むこととする。したがって、26年度、27年度の幾つかの実験計画についての遂行優先度は下げざるを得なくなった。
研究環境整備の必要性 無菌化CD157KOの表現型の中で腸内細菌叢依存性が示唆されるものを免疫系と精神神経系で見出だした。しかし、無菌化マウスを搬入直後に解析したのでは輸送時のストレスの影響が避けられず、無菌状態を維持しつつ飼育環境に慣れさせるための条件整備が必要である。申請者の要請により今後の解析に向けて、動物施設職員がビニルアイソーレータの稼働に向けて準備を進めており、幾つかの実験が待機状態となっている。28年度に予定されている整備完了次第、無菌化マウスを用いた実験を再開する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
27年度に得られた結果を詳細に検討した結果、腸内細菌叢依存性の表現型の形成機構を理解するためには、全身性の影響として血漿のメタボローム解析を行うことが必須との結論に至った。27年度に予定していた実験計画の内、重要度が低下した計画の予算の一部の使用目的を変更し、28年度と合わせてメタボローム解析の費用に充てる必要が生じたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
メタボローム解析 マウス血漿10検体 110物質濃度解析 999,000円をHMT社に委託した。
|