研究課題
難治性のがんとされている胆道領域がんの治療成績向上、さらには発がん機構の解明のためには、まず、その臨床病理学的特性を詳細に把握することが必要であると同時に、それらと“紐付け”可能な臨床検体を用いた包括的な分子病理学的検討が急務である。そこで、研究代表者が新たに樹立した日本人由来の胆道領域がん培養細胞株13種、ジェノグラフトモデル26症例、凍結保存された胆道領域がん臨床サンプル350症例(非腫瘍性胆管も含まれる)、手術症例約400症例の切除標本を軸に、胆道領域がんの発がん・増殖・進展に関わる分子機構の解明と、新規抗癌剤の前臨床試験を通じた検証を行っている。平成27年度は、昨年度146症例の胆道領域がん遺伝子発現データベース解析結果と定量的Real-Time PCR法による発現の確認から選出した、腫瘍の存在部位(肝臓内と肝臓外)で著明な差異のある候補分子に関して免疫染色による確認を進めた。さらに、新たに樹立した日本人由来の胆道領域がん培養細胞株13種からRNAを抽出して同様の解析を行い、データベースを確立した。一方、腫瘍進展様式(上皮内がん成分(IDCC)の有無)に基づいたデータの群分けに関しても解析を進めており、差異のある候補遺伝子の選定を進めている。前臨床試験に関しては、現在標準化学療法とされるジェムシタビンとシスプラチンの併用療法の効果をin vitro assayで初めて証明した。さらに新規抗がん剤Xに関して、ジェムシタビンとシスプラチンとの多剤併用試験をin vitro assayで行い、その効果判定を行った。こういった胆道領域がんにおける多剤併用in vitro assayは世界的に行われておらず、臨床試験でしか示すことができなかった多剤併用療法の薬効検討を可能にしたassay系を確立したことは有意義と考えられる。
3: やや遅れている
昨年度146症例分の胆道領域がん遺伝子発現データベースから腫瘍部位別に差異のある候補遺伝子を選出したが、免疫染色による検討でも著明な際を証明するには至らなかった。そのため、今年度はさらに、細胞株13腫から得られたRNA発現解析結果を用いて、腫瘍部位間で著明な差を示す候補遺伝子を複数個選出した。しかし、これらの候補遺伝子と昨年度切除検体から選出した候補遺伝子とは一致しなかった。細胞株で選出した候補遺伝子を定量的Real-Time PCR法を施行して発現の確認を行って再検討し、現在ウェスタン法と免疫染色による検討を加えているため、遅れていると判断した。一方、前臨床試験に関しては、世界的に行われていない胆道領域がんにおける多剤併用in vitro assayが確立でき、臨床試験でしか示すことができなかった多剤併用療法の薬効検討が行うことができたため、概ね順調と判断している。以上のように、手術材料検体および細胞株検体を用いた発現解析に関しては、予定より遅れが認められるが、前臨床試験に関しては順調な研究遂行が行われていると判断し、全体としては、やや遅れていると判断した。
腫瘍の存在部位(肝臓内と肝臓外)に基づいた群分けだけでなく、今年度は既に腫瘍進展様式(上皮内腫瘍成分(IDCC)の有無)に基づいて群分けして、差異のある候補遺伝子の選出を行っている。これらに関して、定量的Real-Time PCR法を施行して発現の確認を行ったうえで、有望な分子に関しては、既存抗体または必要に応じて新規に作製した抗体を用いて、多数のヒト胆道領域がんの手術標本を用いた免疫組織化学的検討を施行し、各型を特徴づける機能分子の発現の異常が臨床症例においても実際におこっていることを確認する予定である。それらの因子のタンパク発現について詳細に観察し、がん増殖・進展に深く関連すると考えられる実際に高頻度に発現する分子を選別する。同時に、がんの臨床病理学的特性や患者の生命予後等との関係についても詳細に検討し、がんの生物学的特性の決定に寄与し、病態診断・予後予測の指標あるいは治療標的の候補となる分子の同定を行なう。また、必要に応じて以上の独自に樹立した細胞株を用いたin vitro モデルにより、機能解析を行う予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Mol Cancer Ther.
巻: 14 ページ: 1985-93
10.1038/ng.3375
Nat Genet.
巻: 47 ページ: 1003-10
10.1158/1535-7163.MCT-15-0069