研究課題/領域番号 |
26460508
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
上村 春樹 長崎大学, 熱帯医学研究所, 講師 (60184975)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | トランスシアリダーゼ / シャーガス病 / トリパノソーマ原虫 |
研究実績の概要 |
トランスシアリダーゼは、寄生性のトリパノソーマ原虫の一部にのみ検出される特徴ある酵素で、ヒト等の宿主哺乳動物や媒介昆虫には存在しない。シャーガス病の病原原虫Trypanosoma cruziにおいては、感染した哺乳動物の血流型トリポマスチゴ-トで非常に高い活性が検出され、宿主由来の糖複合体の末端にあるシアル酸を切断して原虫表面のガラクトース受容体に転移する活性を示す。トランスシアリダーゼ及びシアル酸を受取った分子は、原虫の宿主防御機構からの認識回避、免疫抑制、宿主細胞との接着、侵入等、原虫のヒトへの感染に重要であることが示されており、シャーガス病治療薬開発のターゲットとして注目されている。しかしトランスシアリダーゼに対する有効な阻害剤が見つかっておらず、その機能も十分な検証に至っていないのが現状である。 本研究の目的は、東京大学創薬オープンイノベーションセンターの協力を得て行っているトランスシアリダーゼ阻害剤のスクリーニングを発展させて、治療薬開発のリード化合物を得ること、それらを用いてトランスシアリダーゼの機能と阻害の検証研究を行うことである。平成27年度に、T. cruziトランスシアリダーゼに対して阻害効果を示した化合物の構造を公開してもらった。幾つかの化合物に共通の構造が認められるとともに、その構造を持つ幾つかの化合物には阻害効果が認められなかった。また、基質受容体であるLactoseの存在、pHの違いによって阻害活性に違いを示す化合物が幾つかあるが、それらが構造的にbulkyであるとか特徴的な解離碁が存在するということではなかった。T. cruziトランスシアリダーゼが多くのファミータンパク質からなることを考えると、それらタンパク質群に対して広く阻害することが治療薬開発には必要である。原虫の培養、細胞侵入への影響をみるための条件設定を行っている段階である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランスシアリダーゼ活性を阻害する化合物群の構造開示を得て、それらの化学構造を比較すると共通する構造が認められた。一方、稀にアッセイの結果がばらつくこと、類似する化合物に阻害効果が認められなかったことは、構造の安定性、より詳細な検討が必要であることを示唆している。 酵素活性を測定するレベルから、原虫の細胞侵入、増殖阻害を測定するレベルの実験を行うにあたっては、100倍程度の量の化合物を必要とする。大部分の化合物は一般的に使用されるものではないが、合成依頼をかけることによって入手可能であることがわかり、現在待っているところである。これら化合物を用いることで、トリパノソーマ原虫の細胞侵入におけるトランスシアリダーゼの役割を調べることができ、治療薬開発に結び付く可能性についても判断することが可能となる。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、合成を依頼している化合物を得て以下の実験を行う。 1.トランスシアリダーゼに対して阻害の認められた化合物を用いて、原虫の宿主細胞感染過程への影響、感染防御の効果を調べる。トランスシアリダーゼは、トリパノソーマ原虫の宿主細胞との接着、侵入、parasitophorous vacuoleからのescape、感染成立のいくつか段階に重要な役割をしていることが示唆されており、阻害剤が感染防御を示すことは治療薬開発の可能性を強く示唆している。 2.トランスシアリダーゼファミリータンパク質の構造と機能の解析を行う。トランスシアリダーゼは数多くの遺伝子ファミリーから成り、Tyr342のHisへの置換によって酵素活性を失っているものをはじめ、ところどころにアミノ酸置換が見られる多数のファミリーから成り立っていてそのすべてが発現している。これら種々のvariantsの阻害剤との相互作用、宿主細胞との相互作用における役割を調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の使用額が予定より少なかったのは、トランスシアリダーゼに対して阻害効果を示した化合物の構造開示を受けてそれらを購入する予定であったが、それらが一般的な化合物ではなく、入手可能先を調べること、注文さらにその後の入手までに予定より時間がかかっていることによる。現在、化学合成の依頼中で近く購入予定である。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度にはトランスシアリダーゼに対して阻害効果を示した化合物を購入し、それを用いてトランスシアリダーゼと基質、阻害剤の生化学的実験、トリパノソーマ原虫の宿主細胞との相互認識、細胞侵入等の実験に用いる物品費に使用する計画である。 また、多くの原虫株に対しての効果を調べる必要が出てくることが予想され、従来から共同研究を行っているDr. Sergio Schenkman, Universidade Federal Sao Paulo(サンパウロ、ブラジル)の研究室を訪問して実験を行うことを考えている。
|