腸管寄生線虫である糞線虫 (genus Strongyloides)の第3期感染幼虫(L3i)は糞便汚染土壌中に生息し、脊椎動物宿主への感染機会を待つ。またL3iは摂食行動を行わず発育停止状態にある。L3iは宿主への経皮侵入を果たすと宿主からなんらかの刺激(宿主因子)を受け取り、発育を再開すると考えられる。宿主因子の本態は明らかではないがこれまで我々は幼虫を取り巻く①温度の上昇、② グルコース濃度の上昇が幼虫の発育再開刺激として作用するのではないかと考え、ラットを自然宿主とするベネズエラ糞線虫 (S. venezuelensis)をモデルとして、in vitro培養系を用いた発育再開刺激実験を行ってきた(前年度までの実験)。発育再開による遺伝子発現の変化を見るために、glutamine fructose-6-phosphate amidotransferase (GFAT)遺伝子をマーカーとして用いた。GFATの発現は宿主体外ではほぼ認められないが、感染約70時間後に肺から回収した幼虫では高いレベルで発現していることがこれまでの実験で明らかになっているからである。本年度(平成28年度)は前年度までに行ったReal-time RT-PCRデータの再解析、および新たな刺激実験に由来する虫体RNAサンプルの調製を行った。グルコース濃度の変化はGFAT遺伝子発現のアップレギュレーションに特に重要であるが、温度上昇のみ、あるいはPBSに添加したアミノ酸混合液のみでもある程度の発現刺激効果が認められた。今後いくつかのRNAサンプルについてはRNA-seq法による網羅的な遺伝子発現解析を行うための準備をすすめている。
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