研究課題/領域番号 |
26460513
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
浅川 滿彦 酪農学園大学, 獣医学群, 教授 (30184138)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 動物園 / 水族館 / 保全医学 / 寄生虫病 / カンガルー類 / オオワシ / アニサキス類 / 特用家畜 |
研究実績の概要 |
到津の森公園で飼育されるカンガルー類の寄生線虫保有状況について公表した。乾燥気候で広大な土地を生息地としている動物が、北九州での高温多湿の環境や来園者の追い回しなどに晒されているので、強度のストレスは常態化しているものと想像される。これが原因となり潜在的な寄生虫病発生が懸念されていたことから、内部寄生虫保有状況を把握した。釧路市動物園では同園で長年保存されていた哺乳類からの寄生虫標本に基づき寄生虫病の回顧的調査を実施し、潜在性の疾病について検討出来た。これらの研究は展示動物の健康管理手法を目指すものであり、本課題のゴールである動物園医学の進展への寄与が期待された。今年は特用家畜・家禽も対象とした。道内観光牧場などで飼育されているアルパカとエミューの内外寄生虫を調査し、アルパカではEimeria属とIsospora属のコクシジウム・オーシストを確認した。関東地方で行われた先行研究でも確認されていたが、後者は未確認であった。道内のダチョウでは、ダチョウハジラミの濃厚寄生が経験されるが、エミューからは外部寄生虫が見出されなかった。また、エミューのと殺個体からは蠕虫未検出であったが、糞便からは線虫卵が検出されたので、新鮮材料を用いた再検査を次年、検討したい。全世界の鳥類展示施設で問題視されつつあるのが、Cyclocoelidae科吸虫類による新興呼吸器病である。シンガポールではこの疾病が連続的に起きており、ムクドリ類の複数種で経験された症例とその予防について鳥類の臨床獣医師向けの専門誌上で解説した。対象施設や動物は多様であったが、これらはワンヘルス(One Health)研究モデルの貴重な事例を構成するもので、その意義は極めて高かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題「動物園水族館動物に密かに蔓延する多様な寄生虫病の現状把握とその保全医学的対応」のため、多くの園館、あるいはその他の展示施設との共同研究が不可欠であり、3年目ということで多くの施設との具体的な調査研究が進展したこと、その結果群を多くの学会・研究会の大会で口頭発表したこと、日本語を含む多くの学術誌で論文公表をしたこと、これら研究結果を「ひらめき☆ときめきサイエンス事業」などで還元したことなどが理由である。なお、最後の事業は申請者によるものとしては、4回目、本報告をまとめている現時点で(2017年4月)、偶然にも平成29年度事業も採択されたというので、5回目となる予定である。前述のように、到津の森公園で飼育されるカンガルー類、釧路市動物園の哺乳類各種、観光牧場の飼育アルパカ、シンガポールの動物園で飼育されるムクドリ類のほか、猛禽類医学研究所で収容・飼育されるウミワシ類の寄生蠕虫類の保有状況の調査結果も刊行された。際立った知見としては、夏季に回虫類の虫卵陽性率の上昇が認められたこと、鉛中毒のオジロワシからは卵殻が緑染された回虫卵が確認されたこと、アニサキス科の第3後期幼虫と目される線虫類寄生によるオオワシの腺胃潰瘍病変が見出されたことなどで、本課題にも密接に繋がる動物園飼育鳥類の健康維持に有用な知見を得た。広島市安佐動物公園では、同園で死亡した天然記念物オオサンショウウオの蠕虫保有状況も公表された。予想以上の対象施設や動物は多様であったが、ワンヘルスOne Health研究のモデルの根拠となる貴重な事例であった。
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今後の研究の推進方策 |
「達成度」で前述したように、この課題の展開には多くの園館との共同研究が不可欠である。したがって、今後の研究を推進するためには、今まで以上に、より多くの園館関係者の方々にご理解頂くようにしたい。そのためには、これまでに得られたデータの公表が急務である。まず、論文公表が優先される。次いで、学会報告で、これにより、本研究のアピールを可能にする。また、園館と同等の立場で行うことを最大限の留意点としたい。大学がこのような研究を行う場合、材料の狩り場のようなイメージを持たれやすいが、絶対に避けないとならない。一方、園館では、常に、大量死を伴う展示動物の疾病が生じている。この改題は寄生虫病に特化しているが、このような死因解明でも、情報管理の中、他分野(病理学、感染症学、臨床学、公衆・衛生学、保全生態学など)の研究者と融通無碍に協調していきたい。最終的にはワンヘルスOne Health研究のモデル事例に還元するというゴールがぶれないようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ全額を計画通り、執行した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究調査・研究成果発表関連旅費として使用する予定である。
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