研究課題
本研究の目的は、流行地を網羅する36集団の熱帯熱マラリア原虫を用いて、薬剤耐性マラリア原虫が耐性起源地からアフリカに至り、大陸内を拡散する経路を解明することである。本年度は2つの成果を得ている。・パプアニューギニアで2017年1月に得られた検体の中に、アルテミシニン耐性の責任遺伝子とされているKelch13遺伝子のC580Y変異を示す原虫が3例存在することを明らかにした。Kelch13遺伝子周辺の-32kbから+72kbに位置する9箇所のマイクロサテライトについてタイピングをおこなった結果、カンボジア由来のアルテミシニン耐性原虫(MRA-1236)と一致した結果が得られた。一方、野生型Kelch13遺伝子を持つ原虫では多様なマイクロサテライトタイプを示していた。これはアルテミシニン耐性原虫がカンボジアからパプアニューギニアへ拡散したことを示している。耐性が出現しているメコン流域以外で移入型C580Y変異の存在は初めての報告であり、データの正確性についてさらに確認しWHOのマラリア薬剤耐性担当部局へ情報共有する予定である。・これまで解析が不十分だった南米(ブラジル)の検体を用いた解析がほぼ終了した。その結果、80%の検体は3つのcladeにクラスタリングされたが、これらは近縁であった。アフリカの原虫との間には大きな遺伝的相違が観察されている。現在、どのようなmigrationパターンを経て現在観察される結果になったのかについて解析中である。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の目標はほぼ達成することができた。ただし、新規アルテミシニン耐性のバックグランド遺伝子として6種類の耐性関連変異が発見された。このタイピングを実施することにより、薬剤耐性マラリア原虫が起源地からアフリカに至る経路をより正確に推定することが可能となる。このため区分を(2)にした。
遺伝子の解析マーカーを増やすことにより、原虫集団構造の解析精度を上げる。この目的のもと6種類の新規アルテミシニン耐性のバックグランド遺伝子を解析に加える。これらの解析をもとに、グローバルな原虫集団構造と薬剤耐性の進化系統との関連を明らかにする。アルテミシニン耐性原虫の出現起源については十分に解明されているとは言えず、Kelch13の遺伝子頻度解析をさらに進めるとともに、アフリカでのアルテミシニン耐性責任遺伝子の同定とその拡がりも検討する。これらの結果を総合し、薬剤耐性原虫のグローバルな移動ダイナミズムを解明する。
当初、自ら解析する予定にしていた南米の検体について、European Nucleotide Archive (ENA) of the European Molecular Biology Laboratory (EMBL)からデータを入手することができたため、解析に必要な試薬等が節約できた。
次年度の遺伝子解析費用に使用する予定。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
Absence of in-vivo selection for K13 mutations after artemether-lumefantrine treatment in Uganda.
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