研究課題/領域番号 |
26460520
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
後藤 隆次 岐阜大学, 生命科学総合研究支援センター, 助教 (80326355)
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研究分担者 |
田中 香お里 岐阜大学, 生命科学総合研究支援センター, 教授 (20242729)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 嫌気性菌 / Bacteroides fragilis / 薬剤耐性機構 / カルバペネム耐性 / 薬剤排出ポンプ / ゲノムDNAライブラリー / 全ゲノム解析 |
研究実績の概要 |
腸管常在の嫌気性菌Bacteroides fragilisのカルバペネム耐性は化学療法において時に深刻な問題を引き起こす。本研究課題の目的は、B. fragilisのカルバペネム中等度耐性に寄与する新規耐性因子の同定と構造・機能解析を行う事である。昨年度に我々は、カルバペネム中等度耐性B. fragilis GAI92214株のゲノムDNAライブラリーを作製した。 本年度は、当該ライブラリーのうち約4万種の組み換え大腸菌の中から、メロペネム耐性を示すクローンを選出し、当該挿入断片の塩基配列を決定した。結果、Major facilitator superfamily (MFS) transporterおよびその上下流領域の塩基配列を明らかにした。当該MFS transporter全長を高コピープラスミドへサブクローニング後、得られた組み換え大腸菌のメロペネム最小発育阻止濃度(MIC)値を測定したが、コントロールと比べて顕著なMIC値上昇は認められなかった。当該transporter遺伝子が大腸菌内で発現していない可能性もあるため、今後はB. fragilis株内での当該遺伝子発現量を比較解析する必要がある。なお、今年度に同定したMFS transporterのカルバペネム耐性への貢献度が低い可能性があるため、他の耐性因子(他の薬剤排出ポンプの存在やポーリンの変異など)の存在を探索し、耐性を多面的に捉えるためにも、今年度はB. fragilis GAI92214株の全ゲノム配列決定にも着手した。現時点でゲノムの大半をカバーする領域の塩基配列を決定している(現在contig 5本)。来年度以降は、contig間のギャップ領域の塩基配列決定により、ゲノムの全塩基配列を決定後、遺伝子抽出、命名、比較ゲノム解析等を行い、新規耐性因子の候補を複数選出する予定である。その後、各遺伝子の機能と発現解析等を行い、B. fragilisのカルバペネム中等度耐性機構を網羅的に解析していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
B. fragilisのカルバペネム中等度耐性に寄与する新規耐性因子の同定と構造解析を行うために、昨年度に我々は、メロペネムMIC値が16 μg/mlを呈したB. fragilis GAI92214株のゲノムDNAライブラリーを作製した。手短かには、物理的に切断されたゲノムDNAの3~5 kb分画を、高コピーベクターへ挿入し、組み換え大腸菌クローン(宿主に多剤高度感受性E. coli KAM3 ΔtolC株使用)を約92万種獲得した。本年度は、うち約4万クローンを、終濃度0.04 μg/mlメロペネム含有LB寒天培地を用いたスクリーニングにかけ、メロペネム耐性クローンを選出した。挿入断片サイズや再トランスフォーム時の耐性の再現性も解析しながら、最終的に1つの耐性クローンを得た。当該クローン由来プラスミドの挿入断片の塩基配列決定、並びに、染色体を鋳型にした直接シークエンス法により、最終的にMajor facilitator superfamily (MFS) transporterおよびその上下流領域の塩基配列を決定できた。当該MFS transporter(12個の膜貫通領域を保有)は、既知のB. fragilis全ゲノム株の当該塩基配列と99%配列が一致した。 次に、当該MFS transporter全長とN末上流のpromoterを含むサブクローン(1)とpromoterを含まないサブクローン(2)、(2)のN末3分の1領域を含まないサブクローン(3)、(3)の逆向きサブクローン(4)、MFS transporterを含まないベクターのみのBlue colony(5)、宿主のみ(6)、E. coli基準株ATCC 25922株(7)の計7通りについて、メロペネムMIC値を測定した。結果、コントロール(Blue colony、宿主)と比べて、MIC値に大差ある大腸菌組み換え体は無かった。スクリーニング用寒天培地と成分が同一のLB液体培地使用時は、コントロールと比べてやや耐性を示す組み換え体もあったが、ミューラーヒントン寒天培地を用いた寒天平板希釈法による厳密な測定法では、MIC値に大差ある組み換え体は認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
カルバペネム中等度耐性B. fragilis GAI92214株の新規耐性因子の構造・機能解析を推進させるために、以下に示す方策を行う。 (1) 本年度に同定したMFS transporter遺伝子が大腸菌内で発現していない可能性もあるため、カルバペネム中等度耐性B. fragilis GAI92214株およびカルバペネム感受性B. fragilis ATCC 25285株における当該transporter遺伝子発現量を定量的なRT-PCRにより解析する。 (2) 同定したMFS transporter以外の因子(他の薬剤排出ポンプやポーリン変異など)が耐性に寄与している可能性もあるため、現在、B. fragilis GAI92214株の全ゲノム解析も進行している。PacBio RSIIを用いてゲノムの100倍長の塩基配列を解読し、現時点でcontig 5本の状態まで解析が進んでいる。今後は、contig間のギャップ領域の塩基配列を別途決定後、ORF抽出、命名作業を進める。その後、既に全ゲノム配列が報告されているカルバペネム感受性B. fragilis ATCC 25285株との比較ゲノム解析を行い、GAI92214株に特有な耐性因子の候補を選出する。当該候補遺伝子を大腸菌内でサブクローニングしカルバペネムMIC値を測定する。また、B. fragilisでの遺伝子発現量解析等を行う。 (3) 耐性に大きく寄与する因子が同定された後、当該因子の機能解析を進める。具体的には、例えば、耐性因子が薬剤排出ポンプの場合、(a)ポンプが単剤型なのか多剤型なのかを解析する。(b)当該ポンプが、水素イオン(またはNa+)の電気化学ポテンシャルに依存して駆動するのか、ATPを利用して駆動するのか等を解析する。(c)当該ポンプ遺伝子を大腸菌内で破壊させたクローンの各種抗菌薬に対するMIC値が、コントロールと比べて低下するかを解析する。E. coli-B. fragilis間シャトルベクターを入手し、当該排出ポンプのB. fragilis変異株を用いた感受性試験も行う。 (4) 研究成果をアメリカ微生物学会にて発表する。和論文雑誌へも投稿予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度において、ゲノムDNAライブラリーを用いた新規カルバペネム耐性因子の同定が予想よりも難航したため、詳細な遺伝子機能解析(特に研究分担者使用分)や遺伝子発現解析の開始が遅れた。これに伴い、今年度内の当該実験に要する試薬購入費の支出が減少した。また、別方策として開始した目的菌株の全ゲノム配列決定に伴い、バイオインフォマティクス解析の時間も増加したため、実験用に使用する試薬購入費がやや減少した。これらの要因により今年度内にて若干の未使用額(次年度使用額)が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
実施が遅れた遺伝子機能解析・発現解析に要する試薬購入費の一部を未使用額(次年度使用額)より支出予定である。なお、全ゲノム配列決定後に実施するバイオインフォマティクス解析を効率的に進めるために、解析の一部については受託解析を利用する事も検討する。
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