研究課題/領域番号 |
26460525
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
安倍 裕順 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (00379265)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 病原性遺伝子 / 百日咳菌 / 気管支敗血症菌 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的はラットへの感染過程で高発現する気管支敗血症菌特異的な遺伝子の感染成立における役割を解明することである。昨年度までに遺伝子欠損によってラット気管への定着能が野生株に比べて低下する気管支敗血症菌の転写制御遺伝子および鉄関連遺伝子を見いだしていた。 今年度はまず両遺伝子が気管支敗血症菌株間で保存されているかボルデテラ属細菌の比較ゲノム解析による検討を行った。その結果,NCBIに登録されている104株のボルデテラ属細菌(気管支敗血症菌62株、パラ百日咳菌2株、百日咳菌40株)のゲノム配列情報とblast検索プログラムを用いて両遺伝子が全ての気管支敗血症菌で保存されており、パラ百日咳菌や百日咳菌では保存されていないことを確認した。また、両遺伝子を含む65kbの領域は気管支敗血症菌特異的な遺伝子塊を形成していることを見いだした。本領域には鉄代謝や鉄イオン輸送に関わる62のORFがあることが推定された。一方、これまで気管支敗血症菌特異的な遺伝子とされてきた遺伝子群も、比較ゲノム解析からは必ずしも特異的でないという結果が得られた。研究材料の選定のため、気管支敗血症菌特異的な遺伝子の分類の再調査を行った。その結果、ラット感染中に発現が変動する遺伝子を含む7つの気管支敗血症菌特異的な遺伝子塊を見いだすことができた。従来のゲノム配列比較によると、少なくとも気管支敗血症菌特異的な遺伝子は602種存在することが報告されている。今回の解析から、249種の遺伝子はファージ由来の遺伝子であり気管支敗血症菌株間で保存されていないことを見いだした。また、残りの遺伝子のうち280種の遺伝子は菌染色体上に7つの遺伝子塊を形成していた。7つの遺伝子塊をそれぞれ欠損させた株を作製して、ラット感染モデルに供したところ、いずれも感染定着能が野生株と同等であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はラット感染中に発現が特徴的に変動する気管支敗血症菌の遺伝子について遺伝子欠損株の作製と平行して、当該遺伝子の菌種内と菌株間の保存性についてボルデテラ属細菌の比較ゲノム解析により検討した。その結果,計画調書で述べた遺伝子欠損によってラット気管への定着能が野生株に比べて低下する気管支敗血症菌の遺伝子B, C, Fのうち、BとCは気管支敗血症菌種内で保存されていないことが明らかとなった。計画調書で述べた28種の発現誘導される遺伝子群の再分類を行ったところ、ラット気管で高発現する遺伝子は7種であった。これは結果的に気管支敗血症菌のラット感染に必要な候補遺伝子数を絞り込むことができたことを意味している。また、遺伝子塊(11kb-120kb)のような長い領域を菌体染色体から欠損させる方法を開発終了しており、今後は残りの遺伝子および遺伝子塊領域の欠損株の構築、感染実験への供与などを続けて、当初の計画とおりに解析が進むことが期待されることから達成度は概ね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画とおり、ラット気管で高発現する遺伝子欠損変異株の作製と作製した菌株のラット気管への感染能評価を続ける。ラット感染成立に関与する遺伝子または遺伝子塊が見つかれば、当初の計画にしたがい、遺伝子の機能解析を順次進める。また、比較ゲノム解析から気管支敗血症菌特異的な領域が遺伝子塊を形成することとこれまでに報告された特異的な遺伝子の異同についての特異的な遺伝子の解析をまたずに論文として報告する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の物品の値上げに伴い物品費の不足分が生じた。不足分を補うために計画を一部変更し旅費として使用予定だった金額を物品費として使用したために、不足分がわずかに生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
購入予定の物品は必要量を確保するために、学会発表の予定数を変更して対応する。
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