研究課題
アナプラズマ科細菌には、マダニ媒介性新興感染症の「ヒト顆粒球アナプラズマ症」および「ヒトネオエーリキア症」の病原体であるAnaplasma phagocytophilumやNeoehrlichia mikurensisが含まれている。日本国内では、これらの細菌が未だに分離されていないため、その基礎微生物学的知見が極めて乏しい。そこで、本研究では、難培養性アナプラズマ科細菌に感染した媒介マダニや野生動物の検体を用いて、メタゲノム解析を駆使することにより、これら細菌のゲノム情報を含む分子遺伝学的知見を蓄積することを目的とした。当研究室では、A. phagocytophilumを含むアナプラズマ科細菌を検出した2匹のシュルツェマダニの唾液腺DNAを保有しており、この宿主混ざりの全DNAをGenomiPhi V2によりまるごと増幅したDNA(GPa-DNA)を確保してある。本年度は、まずこの2匹のマダニのGPa-DNA中にどれほどのアナプラズマ科細菌が存在するかについて、16S rRNA遺伝子を標的としたPCR産物の次世代シーケンス解析を行った。その結果、1匹のマダニAにおいて、得られたmapped readsの90%がアナプラズマ科細菌の配列であり、そのうち、A. phagocytophilumとN. mikurensisがほぼ同数存在することが判った。もう一匹のマダニBにおいては、得られたmapped readsの2%がアナプラズマ科細菌の配列で、98%は性状不明のリケッチア目細菌のものであった。また、一方で、脾腫を起こした野ネズミの脾臓DNAを入手し、これについても16S rRNA遺伝子を標的とした次世代シーケンス解析を行った結果、得られたmapped readsの99.3%がアナプラズマ科細菌で、そのうちの約半数がN. mikurensisの配列であることが判った。
2: おおむね順調に進展している
おおむね順調に進んでいる。本年度は、特に新たに設置した次世代シーケンサー(Ion torrentシステム)や解析ソフトを順調に運用すること、およびアナプラズマ科細菌のゲノム解析が可能なマダニや野生動物のDNAサンプルの選出・確認を目的としていた。その意味で、16S rRNA遺伝子の増幅産物を用いた次世代シーケンス解析により、2匹のうちの1匹のマダニAの唾液腺DNAにアナプラズマ科細菌のA. phagocytophilumとN. mikurensisの双方が多量に存在し、これら2菌種のゲノム解析に有用なサンプルであることが判ったことは情報として大きい。また、マダニBも、A. phagocytophilumはマダニAほど多くはないが、次世代シーケンスの結果を比較することで、A. phagocytophilumのゲノム配列の確認作業が可能となる。さらに、脾腫を起こしていた野ネズミの脾臓からはN. mikurensisが検出され、これもマダニAの次世代シーケンス結果と比較することにより、N. mikurensisの配列の確認作業が可能となる。つまり、A. phagocytophilumの場合はマダニAとBにおいて、またN. mikurensisの場合はマダニAと野ネズミにおいて、次世代シーケンス結果を比較し、これらの両細菌の断片配列を抽出して、精度の高いゲノム配列の解読を目指すことができるようになったと考える。
現在、マダニ唾液腺DNAの断片化の条件検討を進めている。その後、Ion torrentシステムを用いたPyrosequencingにより、マダニAのメタゲノム解析を行い、得られた配列の帰属を行う。得られるかなりの配列が宿主マダニ由来のDNAと考えられるが、データベースにはマダニのゲノム情報が極めて少ないので、配列の多くはno mapped readsとして計数されると思われ、mapped readsのほとんどは寄生細菌などに由来するものと考えている。マダニAの解析が軌道にのった後、マダニBの解析を進め、マダニAとBの結果を比較しながらA. phagocytophilumの配列を抽出する。この配列抽出は本学が所有するDNAStar Lasergeneソフトウエアを用いると可能である。次に、データベースに登録されているA. phagocytophilumの米国ヒト分離株のゲノム配列を基に、得られた国内のA. phagocytophilumの配列断片のアッセンブルを行い、アノーテーションを進めながらゲノム配列の構築を試みる。しかし、相当数のギャップが残ることが考えられるので、その場合はtotal read数(coverage)を考慮しながら再度次世代シーケンス解析を繰り返す。N. mikurensisの場合は、マダニAの唾液腺GPa-DNAと野ネズミの脾臓DNAからのメタゲノム解析の比較で配列を抽出することになるが、宿主野ネズミからの相当量のDNAの混入が考えられるため、total read数をかなり増やす必要があると考えている。このようにして、次世代シーケンス解析を駆使し、国内のA. phagocytophilumおよびN. mikurensisのゲノム情報の蓄積を目指す。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件)
Jpn. J. Infect. Dis.
巻: Advance Publications ページ: 未定
10.7883/yoken.JJID.2015.003
Emerg. Infect. Dis.
巻: 20 ページ: 508-509
10.3201/eid2003.131337